蜜味センチメンタル
羅華はこくんと頷き、瞼を閉じた。
「……那色くん……」
「はい」
「……まだそこにいる…?」
「いますよ」
「そっか……」
羅華はもぞもぞと手を動かし、布団の端からそっと差し出した。頼りなげに宙を探るような仕草は、子どもみたいに不器用で愛おしい。
「……手、握ってほしい、な……なんて」
そっと握り返すと、呼吸が静かに整っていく。穏やかな寝顔が、そこにあった。
那色はその横でじっと彼女を見つめながら、胸の奥に浮かんだ言葉を、声にせず心の中で繰り返した。
──あなたがいてくれて、よかった。
外ではまだ雨が降り続いていた。けれどこの部屋の中には、ぬくもりが確かに息づいていた。
静かな光が灯るような時間。それはふたりだけの、何よりも確かな真実だった。
羅華が深い眠りに落ちてからも、那色はしばらくベッドの傍らに座り続けていた。時折寝息に合わせて動く胸元を見ては、安心して目を細める。
──次にすべきことは、もうわかってる
自分の人生に、誰を迎え入れたいのか。これ以上悩む理由も、躊躇う余地もなかった。
いつか、ではなく、きっと近いうちに。
そのときはちゃんと、手を取ってもらおう。そして今度こそ、自分の言葉で想いを伝えよう。──そんな風に、未来を見つめる。
静かに灯りを落とすと、那色はそっと毛布の端を整えた。
「……おやすみ、羅華さん」
そう囁き、那色はその夜、誰よりも優しい目で眠る恋人を見守り続けた。