蜜味センチメンタル


「ば、馬鹿言わないで!離してよっ」

「羅華さんもうお風呂はいりました?いい匂いがする」

「ちょっ…近いってば!ていうかマフラー置いたなら早く帰って!」

「えー、もう夜中なんだから泊めてくださいよ」

「は!?」

先程から間違いなく那色の体を押し返している。那色の体は見た目に反してしっかりしていて、びくともしない。

「今日はフルでシフト入ってたんで疲れちゃいました。お願いします、羅華さん」

「……」

「こんないたいけな美少年を夜中に一人で帰らせるなんて、大人の羅華さんならしませんよね?」

どこがいたいけだ。しかも美少年って、自分で言うのか、確かにそうなんだけれども。

「…大和さんに送ってもらいなよ」

「もうとっくに帰ってますよ」

「いつも送ってもらってるって言ってたじゃない。何も言われなかったの?」

「言われたけど、自転車通勤にしたって言えば信じてましたよ」

「……」

「だから、ね?お願いします」

こてん、と音がしそうに小首を傾げて甘えてくる那色。その面の良さに、心がぐらついた。

時計の針は容赦なく進んでいくし、那色からは絶対に引かないという気配がにじみ出ている。しばらくの葛藤の末、羅華は観念したように小さく息をついた。

「…分かったよ…けど、変なことはしないでよ」

「やった!ありがとうございます」

——悔しい。けど、可愛い…

可愛いから甘やかしてしまうだけ。他意なんて、あるわけが無い。

「ていうか、泊まるって言うけどうち男性サイズの服なんて無いよ」

「あ、大丈夫です。ちゃんと持ってきてるんで」

「は?」

やはり帰る気なんて始めからなかったんじゃないか。羅華が睨むと、那色は堪えきれないように笑い出した。

「はは!そんな怖い顔しないでくださいよ。気分でそのまま大和の家に泊まる事あるんで、バイトの時は持ってくるようにしてあるだけですよ」

「……」

「本気で嫌がられてたら、僕だって大人しく帰ってましたよ」

< 32 / 320 >

この作品をシェア

pagetop