蜜味センチメンタル
「ば、馬鹿言わないで!離してよっ」
「羅華さんもうお風呂はいりました?いい匂いがする」
「ちょっ…近いってば!ていうかマフラー置いたなら早く帰って!」
「えー、もう夜中なんだから泊めてくださいよ」
「は!?」
先程から間違いなく那色の体を押し返している。那色の体は見た目に反してしっかりしていて、びくともしない。
「今日はフルでシフト入ってたんで疲れちゃいました。お願いします、羅華さん」
「……」
「こんないたいけな美少年を夜中に一人で帰らせるなんて、大人の羅華さんならしませんよね?」
どこがいたいけだ。しかも美少年って、自分で言うのか、確かにそうなんだけれども。
「…大和さんに送ってもらいなよ」
「もうとっくに帰ってますよ」
「いつも送ってもらってるって言ってたじゃない。何も言われなかったの?」
「言われたけど、自転車通勤にしたって言えば信じてましたよ」
「……」
「だから、ね?お願いします」
こてん、と音がしそうに小首を傾げて甘えてくる那色。その面の良さに、心がぐらついた。
時計の針は容赦なく進んでいくし、那色からは絶対に引かないという気配がにじみ出ている。しばらくの葛藤の末、羅華は観念したように小さく息をついた。
「…分かったよ…けど、変なことはしないでよ」
「やった!ありがとうございます」
——悔しい。けど、可愛い…
可愛いから甘やかしてしまうだけ。他意なんて、あるわけが無い。
「ていうか、泊まるって言うけどうち男性サイズの服なんて無いよ」
「あ、大丈夫です。ちゃんと持ってきてるんで」
「は?」
やはり帰る気なんて始めからなかったんじゃないか。羅華が睨むと、那色は堪えきれないように笑い出した。
「はは!そんな怖い顔しないでくださいよ。気分でそのまま大和の家に泊まる事あるんで、バイトの時は持ってくるようにしてあるだけですよ」
「……」
「本気で嫌がられてたら、僕だって大人しく帰ってましたよ」