蜜味センチメンタル
那色は靴を脱ぎ、置いていたスリッパに足を入れる。その目が羅華を見上げ、腕を掴んだ。
「羅華さん、本当は僕が約束通りに来てくれて嬉しいでしょ」
「!そんなわけ…っ」
「本当に?1ミリも?」
「……」
「言ってくれなきゃマフラー返さないし、仕事終わりに毎日来ますよ」
「!?」
それはさすがに困る。土曜はまだしも、平日の夜中に来られたら仕事に支障が出る。かといって居留守を使おうものなら、この男は絶対に何かやらかす。
そんな碌でもない信頼だけは、この短い付き合いの中でも確信していた。
「…キテクレテウレシイヨ」
「棒読みすぎる。失格」
「くっ…」
「じゃあ交換条件。添い寝させてくれたら平日に来るのはやめてあげます」
「は、はあ!?」
添い寝なんて冗談じゃない。そう思って声を上げるも、那色は涼しい顔で廊下を歩いていく。
迷いなくリビングのドアを開き、ぐるりと部屋を眺めた。
「やっぱベッドはシングルか」
「ちょっと那色くん!変なことしないって約束は…」
「添い寝のどこが変なことなんです?羅華さんは赤ちゃんの頃から1人で寝てたんですか?」
「子供と大人じゃ意味が違うでしょ!」
「…それは羅華さんが僕のこと意識してるから、そう思うんじゃないですか」
「!?」
リュックをぱさりと落とし、那色は一歩、二歩と近づいてくる。
羅華のすぐそばまで来ると、背後の壁に手をついた。
「な、何す…」
「…ほら。顔、真っ赤になってる」
反対側の手がそっと頬に触れる。その瞬間、羅華の喉から小さな声が漏れた。
「本当に慣れてないんだ。かわいー」
「は、離れて…」
「やだとかやめてじゃなくて、離れて、なの?」
「や、やだ…」