蜜味センチメンタル
そうして羅華はひとつ息を吐き、ゆっくりと背もたれに身を預けた。
「そっか…それはびっくり。だから時々泊まりに行ったりしてたんだね」
「……まあ、はい」
「でも今まで2人がその事を言わなかったってことは、敢えて隠してたってことだよね?だったら私、大和さんの前では今まで通り知らないふりしてた方がいいのかな?」
言葉を選びながら尋ねたのは、無理に聞き出してしまった後ろめたさがあったから。きっとそこには、何かしら触れてほしくない事情があるのだろう。
那色は少し間を置いて、静かに首を振った。
「羅華さんなら別にいいです。大和もあなたのことは信用してるみたいですし」
「そう?」
「そもそもの話、羅華さんが上手に隠し通せるとも思えませんしね」
「……」
この子は定期的に人を貶さないと死んでしまう呪いにでもかかっているんだろうか。
一言余計だよと吐き捨て、羅華はそのまま残りのパスタをかき集める。
すると、不意に那色の声が届いた。
「ちゃんと言ったんで、来週のドタキャンは許しませんからね」
横目を流すと、真っ直ぐに自分を見ている瞳とぶつかった。からかいもなく、真剣な眼差し。
その視線に胸の奥で、鼓動が跳ねた。
「…うん。ちゃんとわかってるよ」
静かにそう応えて、最後の一口を食べる。どこかぎこちない空気を漂わせながら、やがて食事が静かに終わる。
その後は、なんとなく時間だけが過ぎていく。
店を出たあとはいくつかの店をまわって日用品を買い足した。那色は特に何を言うでもなく、ずっと羅華の後ろを歩いていた。
横に並ぶわけでも、特別な話をするわけでもなくただ、同じ時間を共有していた。
結局、那色は夕方まで羅華の部屋に居座り、バイトの時間ぎりぎりになってようやく立ち上がる。
「来週の土曜日、また来ます」
玄関先で言葉を残し、那色は出て行った。
羅華は何も返さなかった。ただ、ドアが閉まったあとの静けさだけが、やけに耳に残った。