蜜味センチメンタル
頬杖をつきながらそれを見送り、顔を正面に戻す。
——執着、か…
大和の言葉を疑うわけではない。けれどそれが本気と同義かと言われれば、正直まだ分からない。
少なくとも今の自分には、那色のことを知るにはあまりにも材料が足りなさすぎた。
もしも、「もう一人の執着を向けていた人」の代わりにされているとしたら。そんなことがあるとすれば、それ以上に傷つくことはない。
そして今、こうしてその可能性に心がざわつくという事実は、那色という存在が自分の中で、確かに大きくなっている証拠だった。
先輩のことを忘れたわけじゃない。けれどもう、見て見ぬふりができないところまで来てしまっている。
気持ちの落としどころが分からず、頭に手を置いたその時。
不意に、キュウ、と空腹が胃の奥から鳴った。
「……」
こんなにも真剣に悩んでいる最中でさえ空腹だけは忘れない自分の図太さに、一瞬だけ恥ずかしさが勝った。
──まあいいや…考えるのは一旦やめよう
ここでどれだけ悩んでも無意味だ。いくら頭をひねったところで、那色の本心なんて那色にしか分からない。
──でも…一応、来客用寝具だけは買い足しておこうかな…
土曜に来ると言っていた以上、あの子は本当にやってくるだろう。
また「添い寝」とか言って、うまく丸め込まれたらたまらない。そんなのを毎回許していたら、いつか本当に何をされても文句が言えなくなる。
気がついたら体の関係になってました、なんて本当に笑えない。
だからこそ、この曖昧な状態はどうにかしなければならない。
けれど、自分の気持ちすらまだ定まっていないのにあの口達者な青年を相手に説得なんて、果たしてできるのだろうか。
ただでさえ、ナメられているような気がしてならないというのに。
ふと視線をやると、大和がいつもの笑顔で、呼ばれた客と談笑していた。
変わらない風景。違ってしまったのは、羅華の方。
かつて癒やしだったこの場所が、今では悩みの種になってしまっているなんて。
これでは本末転倒だ。
「……はあ……」
羅華はもう一度、頬杖をつきながら、ゆっくりと息を吐いた。