蜜味センチメンタル
そう返したところで、那色が目の前に現れた。
先日のカジュアルな装いとは打って変わって、今日はネイビーのシャツに、上品なグレーのジャケットとパンツを合わせたスタイル。シンプルながらも洗練された雰囲気が漂っている。
その姿があまりにも様になっていて、思わず目を奪われた。
「どうしました?」
大人びた装いとは裏腹に、小首を傾げる仕草は相変わらず可愛らしい。
「……ううん。そういう格好、似合うなって思っただけ」
着慣れているというか、着こなしているというか。かつて夜の仕事で多くの富裕層を相手にしてきた経験が、無意識に羅華の審美眼を養っていたのかもしれない。
その羅華の目から見ても、服は明らかに上質。おそらくかなりのブランドものだろうが、それにまったく負けていない那色自身が、いっそう目を引いた。
むしろ、自然すぎて違和感がない。彼にとって、こうした装いが日常なのだと感じさせられる。
——いったい、これまで何人とデートをしてきたんだろう…
ふとそんな考えがよぎり、自分に嫌気がさした。
「……なんだろうな、」
不意に落ちた那色の声に、思わず顔を上げる。そこには、想像よりもずっと近い距離に彼の顔があった。
「羅華さんに褒められると、倍嬉しく感じる」
「……へ?」
予想外の言葉に、反射的に目を見開いた。
「年上好きの羅華さんのために、今日はめいっぱい背伸びしてみたんですよ。正解だったみたいですね」
「年上好きって……そんなこと、」
その抗議の声は、チュッという軽いリップ音にかき消された。
「!? なっ……!」
驚いて後ずさりし、洗面台の縁に腰をぶつける。「痛っ!」と思わず声を上げて身体を折り曲げた羅華を見て、元凶は楽しげに笑っている。
「大丈夫ですか?」
「〜っ! か、勝手にキスするのやめてよ……!」
「それって、許可を取ればしてもいいってこと?」
「ちがうから!」