先輩はぼくのもの


「お疲れ様でしたー」

「あ!狩谷くん、これ持って帰ってよ」
店長がそう言ってくれたのはクリームパン3個。

「いいんですか?」

「余り物で悪いけどよかったらもらって。狩谷くんが働く前にウチのクリームパン、うまいって言ってくれたの嬉しかったんだよ」


ほら、また胸がぎゅってなる。
なんだか苦しくなる。

「…ありがとうございます。いただきます」

22時前、バイト終わったよって先輩にメッセージを送る。


クリームパン
うまいのはほんと。

だけど、前に店長に言ったのは取り繕うため。
ただそれだけ。
詩先輩に近づくための手段のひとつだった。

ぼくにとってはそんな理由の会話だったのに
あんな風に覚えてくれてたんだ。



「〜…!!!」

帰り道、路地の向こうから人の声が聞こえる。
なんか揉めてる?


まぁ、どうでもいい。


「龍弥、あんた調子乗りすぎたんだよ!」


え??

確実に聞こえた リュウヤ という単語。


リュウヤ…
ぼくの知ってるリュウヤはアイツだけど


なら、余計どうでもいい。



ーーーー


「ミホの事遊んだんだよ!?もっと殴って!こんなんじゃ気が収まらない」


俺、年末になにやってんだろ。
あー、顔いてぇ。
腕も腹も痛いし、どこが痛いのかわかんなくなってきた。


えーっと確か
6人目の?遊んでたミホから昨日連絡あって
もう会えないって言ったら今、これだっけ?

最後に会って話したいって言われて
↓
なんかヤバそうな男2人連れてきて
↓
囲まれて殴られて
↓
今


「しょーもねー…男2人がかりで相手なんて」

口に溜まった血を吐きながら精一杯強がった。


「は?テメェがミホにしょーもねーことしたんだろ。ケジメつけろや」


あぁ、まぁおっしゃる通りで

こんな男、詩が振り向いてくれるわけがない。


「早くもっと殴って!」

「はいはい」


男が、立てなくて座り込んでる俺の胸ぐらを掴んで右手を振り上げた。


今までのバチが当たったな

いや…

想汰(アイツ)にしてきた事にか…



・・・ぎゅっと目を瞑ったが痛みがない。


そっと目を開けると、俺の前に人が立っていた。


「なにしてんすか」

「なんで…」


目の前にはいるはずのない想汰がいた。


「ダサいですね、こんな奴らにやられるなんて」

「あ?うっせーよ。俺、基本人殴らない精神だから」

「言い訳はいいです」


相手の腕を掴んでる想汰。


「テメェいきなりなんだよ!?失せろや!」


「想汰ー…!」


俺の心配をよそに、あっという間に男2人を黙らせた想汰。


「お姉さん」

想汰の声にビクッとしたミホ。


「もうこれで勘弁してあげてもらっていい?龍弥(このひと)クズだからほっときなよ」

「テメーに言われたかねーよ」

まだ起き上がれない中、ツッコむ事は出来た。


「だけど…許さないから…!龍弥が本気になった女がいるって言って…その女もー…」


ダンッ!!

次の瞬間、ミホを壁に追いやりその壁を殴った想汰。

「それ以上喋んじゃねーよ。【その女】に何かしてみろ」


闇
この言葉がピッタリなほどの光を宿さない目


「殺すからな」

きっと嘘じゃない
本音だろう


何も感情がないような、そんな冷めた表情の想汰に
恐怖のせいかゾクッとした。


そして、想汰のさっきの言葉に声は出さず恐怖からか泣きながらその場に座り込んだミホ。


こんな風に泣かせてしまってるのは、俺のせいだ。


「ミホ…ごめん。本当にごめん」


泣きながら俺を見た後、何も言わずに目を逸らしたミホ。
いまさら、自分のしてきた事を悔やんだって遅い事はわかってる。
こうして相手を傷つけて、何がしたかったんだか俺は。



「…わかったよな?」

さっきよりは少し落ち着いた声のトーンで話す想汰。
その言葉の返事として、静かに一度だけ頷いたミホ。


「じゃ、ぼく行きますね」

「え!?俺置いてくの!?」

「は?そのつもりですけど何か?」

「鬼だ!鬼で悪魔だ!」

「そんな叫ぶ元気あったらひとりで帰れるでしょ」


想汰とそんなやり取りをしていたら、後ろから足音が聞こえた。


「なにやってんのお前ら」


その後に聞こえた声。
俺の知ってる声だ。


「田村先輩…」
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