イジワル幼なじみが「友達だからいいでしょ?」っていいながら、めちゃくちゃ溺愛してくるんですけど!?
 式見の言った通り、電車で二駅くらい。駅から歩いて十分のところに曰く、絶景パワースポットらしい銀杏寺があった。
 どこか絶景なんだろうと思えば、境内のいたるところにイチョウの木が生えている。見ると、寺の周りにもぐるりとイチョウが。
 そして、寺の前に設置されていた看板を見ると、この神社の御神木は樹齢何百年もの老木であるイチョウの木らしい。
 これは秋になればとってもきれいな紅葉が見られるんだろうな。
 なるほど。絶景パワースポットって、そういうことね。
「百里。はい、お賽銭」
「え。いいよ」
「いや、俺が誘ったやつだから」
 へえ。意外とこういうところ、律儀だったりするんだ。
 さすが、モテモテのイケメンじゃん。
 参拝をすませると、さっそく例の八角石のもとを訪れる。
 八角石は寺務所にあるおみくじ売り場の隣に設置されていた。
「わあ、すごい……。まるで花みたいな形の石だね」
 そこには、八枚の花びらが広がったような形をした緑色の石が置いてあった。
 これは間違いなくご利益がありそうな石だよ。
「スパイスに使われるスターアニスに似ていることから、スターアニスの別名・八角を取って、八角石と名付けられたみたいだね」
「おお、くわしいじゃん」
「記事に書いてあったからだよ」
「どうすればご利益を得られるの?」
「好きな場所から順番に、時計回りに花びらの部分をなでながら、願いごとを唱えるといいらしいよ」
 好きな場所から順番にか。
 私の願いごとってなんだろう。
 テストでいい点とれますようにかな。
 いや、無病息災。家内安全。みんなが元気でいれますように……。
 ごちゃごちゃ考えつつ、花びらを触っていく。
 ああ、これ意味ないかも。
 本当の願いごとが決めきれないまま、八角石を触り終えちゃった。
 ――ポコン。
 聞き覚えのある、スマホのまぬけなシャッター音。
 ぎゃー! 今、完全に式見に写真を撮られたよね。
「消して」
「むり」
「なんでよ」
「真剣に煩悩と向き合う百里の貴重なシーンだから」
「煩悩って」
 どっちかっていうと無欲だったけど。
 まあ、テストの点数に関しては切実かもしれないけど!
「じゃあ、あんたの願いごとはなんなのよ」
「え。俺? 考えてなかったなあ」
 は。何言ってんの。
 じゃあ、なんでここに来たのよ。
 願いごとがあったから、ここに着いてきてほしかったんじゃないの?
「あっ、思いついた。百里と末長く、いっしょにいられますようにかな」
「はあ」
 思わず、深いため息が出た。
 何が〝末永く〟だ。
 女同士の友達だって、一生友達でいられる子なんてそうそういない。
 〝永遠の友情〟なんて、めったにお目にかかれない。
 それなのに、男女でなんて。
 しかも、式見木蓮と〝一生、友達〟っ?
「むりむり」
「むりじゃないかもよ」
「むりだよ、式見っ」
「あっ。ようやく呼んだじゃん。でも、〝式見〟かあ」
 ジッと、顔をのぞき込まれる。
 式見の色素の薄い瞳に私の顔が映っている。
 鼻先が触れそう。式見のそれに、私のが。息が、かかっちゃう。
 友達って、こんなにお互いの顔を見合うものなの……?
「名前で呼ぶって、約束したよね。木蓮って」
「む、むり……!」
「なんで?」
「恥ずかしいからっ!」
 顔が熱い。なんでわざわざこんなこと言わせるのよ。
 すると「ぷっ」と式見が笑い、ふきだした。
「ふははっ。そっかあ。恥ずかしいんだね。そんなに言うならしょうがない。じゃあ……式見呼びでもいいよ。しばらくはね」
「しばらく、なの……」
「うん、しばらく。じゃあ、お願いの続きしよ」
 そう言って、式見はていねいに八角石の花びらに触れていく。
 こんなに真剣な式見の表情は、見たことがない。
 ――いや、一度だけあったかも。
 保育園の年長のときのこと。広間に大きな笹が用意された日だった。
 色とりどりの飾りに彩られた笹は横倒しにされていた。
 みんなは思い思いの場所に、さまざまな願い事が書かれた短冊を飾り付けていく。
 そんななか、式見だけはそれを持ったまま立ち尽くしていた。
「木蓮くん、どうしたの? 短冊、飾らないの?」
 私が話しかけると、式見はビクッと肩を震わせた。
「あ……えっと。ぼく……あっちで飾るから、百里ちゃんはここから動かないでね」
「へっ、なんで?」
「いいからっ」
 そういうと、式見は笹の下を走り抜け、一番てっぺんの笹の葉に短冊をむすびつけた。
 そして真剣な顔で何かを祈っていたんだ。
 結局、その時に何を願ったのかは知らないけれど。
 だって、あまりにもてっぺんで、笹を立てて園庭にかざったときも、式見の短冊だけは見えなかったんだよね。
 今の願いごとは、あの時のとは違うのかな。
 ぜったいに、聞いてなんてやらないけどね。
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