イジワル幼なじみが「友達だからいいでしょ?」っていいながら、めちゃくちゃ溺愛してくるんですけど!?
そしてついに土曜日がやって来た。
今日は六時に早起きして、お母さんに付き添ってもらい、動画を見ながらがんばってメイクをした。
そのかいあって、動画のおねえさんみたいにはならなくても、なんとか見栄えのするメイクをすることができたよ。
「可愛いじゃん。がんばったがんばった」
お母さんにほめてもらえて、少しだけ自信がつく。
鏡を見ても、なんだか普段の私じゃないような気分になってくる。メイクすごいな。
もしかしたら、何かのバグで式見も「かわいい」って言ってくれるかもしれない。
さっそく着替えて、出かける支度をする。
「そう言えば、誰と出かけるの?」
お母さんが 玄関先で聞いてきた。あれ、言ってなかったっけ。
「式見だよ。式見木蓮」
何の気なしに言うと、お母さんは目を丸くして言った。
「あんたの彼氏、木蓮くんだったの? イケメンじゃない。やったわね」
「っば、えっ。ちが、彼氏じゃないよ。友達」
「はい? 友達? そんなにめかしこんでるのに?」
「そうだよ」
「なあんだ。そうなの」
お母さんは心底残念そうにして、手を振ってきた。何なのよ。
門を出ると、ちょうど式見が来たところだった。
家が近いので、タイミングが合ってしまったらしい。
「おはよう。百里」
「おはよう」
名前呼びだ。でも、木蓮なんて呼べない。
いくら友達だから、とか言われたってそんなのムリ。
極力こいつの名前を呼ばないようにしよう。
「……ふうん」
うわあ、上から下まで見られてる。読者モデルの後輩を値踏みする先輩モデルですか、あんた。
「自分で考えてコーディネートしてくれたの? いいね。メイクもがんばったじゃん」
「いや、これは……」
「ん?」
「柳原くんがコーディネートしてくれて。メイクもお母さんに手伝ってもらったんだ」
ここは正直に言った方がいいよね。
嘘ついても、なんだかこいつにはバレそうだし。
「……へえ。柳原に手伝ってもらったってことね」
「うん、まあ」
「……うーん。可愛くないねえ」
「はあ? さっきこのコーデ見て、いいねって言ってたじゃん」
「コーデはね。でも百里には馬子にも衣装って感じ?」
「ああ、もういい。疲れる」
こいつと話してると、頭がおかしくなるわっ。
「で? 今日は何の用なの。こんなめんどくさいことさせといて、ろくでもない用事だったら本当、キレるから」
「めんどうなふうにしたのは百里側の責任でしょ。俺に押しつけないでくれる」
気だるそうにしながら、式見はズボンのポケットから折りたたまれた紙を開き、見せてきた。
それは雑誌の切り抜きだった。
【絶景パワースポット 銀杏寺の八角石】
記事には、その八角石についての説明や、どれほどのすごいパワースポットなのかということが書かれている。
「なにこれ……」
「すごくない? 俺、最近パワースポットにハマってるんだけど、こういうのって男友達は付き合ってくれないじゃん。バカバカしいとかいってさ。でも、女子の友達ならこういうの興味あるから付き合ってくれそうだなあと思って」
なるほど。このためか。
男子と行きづらいから、女子の私にこんなオシャレまでさせて付き合わせようとしたってことね。
イケメンに釣り合うように、オシャレしてこいって言ったってことか。
納得いったわ。
でもまあ、この八角石とかいうのは確かに気になるなあ。
って、ちょろすぎでしょ私! だから式見につけこまれるんだっての!
「まあ、行ってやってもいいけど」
「よっしゃ! ここから電車で二駅くらい。駅から歩いて十分ってかんじかな」
一気にニコニコ顔になる式見。
その笑顔にはちょっとだけ保育園時代の面影があって、なんだか懐かしくなってしまった。
あのころの私は、ちょっとだけ……。
ほんのちょっとだけ、式見のことが「好きだなあ」って思っていたから。
その時、私の手を一回り大きな手が握り込んできた。
あたたかくて、頼もしい手に、不覚にもドキッと心臓が飛びはねた。
「んえっ」
「なに変な声だしてんの? 今の、カエルみたいだったけど。やっぱ百里っておもしろいわ」
「私はおもしろくないんだけどっ」
その手をむりやりふりほどこうとするけど、式見の力が強くて思うようにいかない。
「放してよ」
「やだ」
「なんで!」
「やだって言ってるのに、なんではおかしくない? 放すわけないから、繋いでるんだけど――手」
さも当然と言わんばかりにヘリクツをこねる式見に、顔を真っ赤にしながら何かを言葉にしようとするけれど。
心臓はうるさいし、式見はむかつくし、なんで手を放してくれないのかわからなくて、私は何も言うことができなかった。
でも、もうわかってるんだ。
こいつに口では勝てないことを。
どうあがいたって、私は式見の思い通りに動いてしまってるんだろうなってことも。
でも、むかつくから。
限界まで、あがいてやる。
そして、いつか式見に「今までからかったりして、すみませんでした」ってこうべを垂れたせてやるんだから!
……いつになるかわからないけど。
今日は六時に早起きして、お母さんに付き添ってもらい、動画を見ながらがんばってメイクをした。
そのかいあって、動画のおねえさんみたいにはならなくても、なんとか見栄えのするメイクをすることができたよ。
「可愛いじゃん。がんばったがんばった」
お母さんにほめてもらえて、少しだけ自信がつく。
鏡を見ても、なんだか普段の私じゃないような気分になってくる。メイクすごいな。
もしかしたら、何かのバグで式見も「かわいい」って言ってくれるかもしれない。
さっそく着替えて、出かける支度をする。
「そう言えば、誰と出かけるの?」
お母さんが 玄関先で聞いてきた。あれ、言ってなかったっけ。
「式見だよ。式見木蓮」
何の気なしに言うと、お母さんは目を丸くして言った。
「あんたの彼氏、木蓮くんだったの? イケメンじゃない。やったわね」
「っば、えっ。ちが、彼氏じゃないよ。友達」
「はい? 友達? そんなにめかしこんでるのに?」
「そうだよ」
「なあんだ。そうなの」
お母さんは心底残念そうにして、手を振ってきた。何なのよ。
門を出ると、ちょうど式見が来たところだった。
家が近いので、タイミングが合ってしまったらしい。
「おはよう。百里」
「おはよう」
名前呼びだ。でも、木蓮なんて呼べない。
いくら友達だから、とか言われたってそんなのムリ。
極力こいつの名前を呼ばないようにしよう。
「……ふうん」
うわあ、上から下まで見られてる。読者モデルの後輩を値踏みする先輩モデルですか、あんた。
「自分で考えてコーディネートしてくれたの? いいね。メイクもがんばったじゃん」
「いや、これは……」
「ん?」
「柳原くんがコーディネートしてくれて。メイクもお母さんに手伝ってもらったんだ」
ここは正直に言った方がいいよね。
嘘ついても、なんだかこいつにはバレそうだし。
「……へえ。柳原に手伝ってもらったってことね」
「うん、まあ」
「……うーん。可愛くないねえ」
「はあ? さっきこのコーデ見て、いいねって言ってたじゃん」
「コーデはね。でも百里には馬子にも衣装って感じ?」
「ああ、もういい。疲れる」
こいつと話してると、頭がおかしくなるわっ。
「で? 今日は何の用なの。こんなめんどくさいことさせといて、ろくでもない用事だったら本当、キレるから」
「めんどうなふうにしたのは百里側の責任でしょ。俺に押しつけないでくれる」
気だるそうにしながら、式見はズボンのポケットから折りたたまれた紙を開き、見せてきた。
それは雑誌の切り抜きだった。
【絶景パワースポット 銀杏寺の八角石】
記事には、その八角石についての説明や、どれほどのすごいパワースポットなのかということが書かれている。
「なにこれ……」
「すごくない? 俺、最近パワースポットにハマってるんだけど、こういうのって男友達は付き合ってくれないじゃん。バカバカしいとかいってさ。でも、女子の友達ならこういうの興味あるから付き合ってくれそうだなあと思って」
なるほど。このためか。
男子と行きづらいから、女子の私にこんなオシャレまでさせて付き合わせようとしたってことね。
イケメンに釣り合うように、オシャレしてこいって言ったってことか。
納得いったわ。
でもまあ、この八角石とかいうのは確かに気になるなあ。
って、ちょろすぎでしょ私! だから式見につけこまれるんだっての!
「まあ、行ってやってもいいけど」
「よっしゃ! ここから電車で二駅くらい。駅から歩いて十分ってかんじかな」
一気にニコニコ顔になる式見。
その笑顔にはちょっとだけ保育園時代の面影があって、なんだか懐かしくなってしまった。
あのころの私は、ちょっとだけ……。
ほんのちょっとだけ、式見のことが「好きだなあ」って思っていたから。
その時、私の手を一回り大きな手が握り込んできた。
あたたかくて、頼もしい手に、不覚にもドキッと心臓が飛びはねた。
「んえっ」
「なに変な声だしてんの? 今の、カエルみたいだったけど。やっぱ百里っておもしろいわ」
「私はおもしろくないんだけどっ」
その手をむりやりふりほどこうとするけど、式見の力が強くて思うようにいかない。
「放してよ」
「やだ」
「なんで!」
「やだって言ってるのに、なんではおかしくない? 放すわけないから、繋いでるんだけど――手」
さも当然と言わんばかりにヘリクツをこねる式見に、顔を真っ赤にしながら何かを言葉にしようとするけれど。
心臓はうるさいし、式見はむかつくし、なんで手を放してくれないのかわからなくて、私は何も言うことができなかった。
でも、もうわかってるんだ。
こいつに口では勝てないことを。
どうあがいたって、私は式見の思い通りに動いてしまってるんだろうなってことも。
でも、むかつくから。
限界まで、あがいてやる。
そして、いつか式見に「今までからかったりして、すみませんでした」ってこうべを垂れたせてやるんだから!
……いつになるかわからないけど。