私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?
 しばらく部屋を調べてから、私は次の部屋に向かった。

 そうしてその日は夜までに、七つの部屋を調べ終えた。残り一つの調べていない部屋は、当然あの手紙を見つけた部屋だ。

 七つの部屋には、物があって人の生活していた形跡がある場所もあれば、家具以外には何もない部屋もあった。しかし、特に気になるものは見つからず、収穫なく寝室まで戻る。


 窓の外を見ると、すでに空は暗くなりかけていた。

 私は部屋に戻り、しっかりと鍵をかけてベッドに寝転ぶ。

 疲れた。けれど、今日は何事も起きなくてよかった。明日も何事もなく過ごせると良いのだけれど。

 それから今朝厨房から持ってきた黒パンと林檎を食べ、瓶に入れてきた水を半分飲んだ。その後でシャワーを浴び、ナイトウェアに着替える。

 明日は洗濯もしたほうがいいかもしれない。一階には極力降りたくないけれど、そのうち着られる服がなくなってしまう。そんなことを考えながらベッドに腰掛ける。

(早く王都に戻りたいな……。リュシアン様の顔が見たい……)

 幽閉されてまだ三日だけれど、随分長く時が経ったような気がする。リュシアン様が恋しかった。


 リュシアン様が私にかけてくれた褒め言葉でも思い出そうかしら。

 私が緑色のドレスを着て行ったときに蛙のようで可愛らしいじゃないかと言ってくれたこととか、手作りのケーキを持って行ったとき、こんな舌が痺れるような異常な味が出せるなんて、お前は天才だなと驚いてくれたこととか……。

 目を瞑って幸せな思い出に浸り始めた、その時。


『ジスレーヌ!』

 突然、部屋に声が響き渡り、心臓が止まりそうになった。

 声のしたほうにゆっくり目を向ける。机の上には鏡が置いてある。屋敷に来た日、必ず部屋に置いておくよう言いつけられたものだ。

 その鏡がうっすらと光を放っている。まさかまたあの幽霊が現れたのかと、一瞬体が強張った。

 しかし、体を傾けて鏡の中を覗いた私の喉からは、自然に歓喜の声が漏れた。

 そこにはあれほど会いたかったリュシアン様の姿が映っていたのだ。

「リュシアン様!? どういうことですか? どうしてリュシアン様が映っているんです!?」

 急いで鏡の前に駆け寄る。リュシアン様はそんな私の姿を見て、呆れ顔をした。

『はしゃぐな馬鹿。この鏡は魔力を使って遠隔でも会話できる魔道具だそうだ。お前の反省具合を見るために使わせてもらった』

「まぁ、リュシアン様と話せるなんて! あと一ヶ月は顔も見れないし声も聞けないと思っていたのに、嬉しいですわ」

 久しぶりのリュシアン様の声に興奮してそう告げると、世間話をしに来たのではないと怒られた。けれど、つい笑みがこぼれてしまう。

 だって本当に嬉しいのだ。リュシアン様はそんな私の様子を見て苦笑いした。


『そちらの生活はどうだ。何か呪いの屋敷らしい出来事でもあったか?』

 リュシアン様はにやにやと意地悪な笑みを浮かべながら尋ねる。多分、本当に何か起こったとは思っていないのだろう。しかし、私はたった三日で随分奇妙な体験をしたのだ。

「ありました! 聞いてください、リュシアン様。私、幽霊を見てしまったようなんです……」

『はぁ? 幽霊?』

 リュシアン様はぽかんとした後、思いっきり馬鹿にしたような顔をする。
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