私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?

19.耐えられない

 非常事態を伝えに来てくれたトマスさんの言葉が、なかなか飲み込めなかった。

 リュシアン様がオレリア様を暴行しかけた? トマスさんは一体何を言っているのだろう。

「ええと……暴行とは、オレリア様を叩いたり、蹴ったりしたということですか……?」

「そちらの暴行ではなくてですね。……リュシアン様とオレリア様は、二人で森の周辺の小屋にいたそうなのです。そこからオレリア様の緊急用通信機による通報があり、兵士が駆けつけると、中にはドレスをはだけ腕を切りつけられたオレリア様と、手にオレリア様の血をべったりと張りつけたリュシアン様がいたと」

 トマスさんは苦りきった顔で言う。

 体からどんどん血の気が引いていくのがわかった。

「リュシアン様はそんなことをする方ではありません!」

「わかっていますよ。リュシアン様も否定しています。けれど真相がどうであろうと、すでに騒ぎになってしまっているんです。ルナール公爵は大変なお怒りで、今日にでも抗議に来かねない様子だそうで……」

「そんな……」

 足に力が入らなくなり、思わずしゃがみ込んだ。

 きっとリュシアン様は罠に嵌められたのだ。

 どうしよう。どうしたら。頭は混乱するばかりで、解決策なんて何も浮かばなかった。


***


 トマスさんが戻っていってしまうと、私は隠し部屋に戻って一人悶々と考え込んだ。リュシアン様はいつ戻って来るのだろう。心配で溜まらないのに、どうすることもできない。

 不安に苛まれながらひたすら待った。

 そして、ようやくリュシアン様が戻ってきたのは明け方近くになってからだった。


 隠し扉が控え目に叩かれ、すぐさま開けるとリュシアン様が疲れ切った顔で顔を出す。ろくに寝ていないのか、目の下には隈が出来ていた。

「リュシアン様! 大丈夫でしたか!?」

「大声を出すな! それにノックされてもすぐに開けるなと言っただろ!」

「す、すみません……。リュシアン様かと思ったら思わず……」

「本当に気をつけろよ。トマスから話は聞いたか?」

「はい。オレリア様への暴行未遂の疑いをかけられたって……」

 思わず大きな声で尋ねると、リュシアン様は慌て顔になった。

「だから大声を出すな! ……今、部屋の扉の前には見張りがついているんだ。今まで以上に注意しろ」

「見張り?」

「ああ、今日の緊急会議までに俺が逃げないか見張っておくつもりらしい」

 リュシアン様はそう言って深い溜め息を吐く。

「緊急会議とはなんですか」

「叔父上がお怒りなのだそうだ。娘が襲われかけた上、腕に傷までつけられたと。……叔父上も当然オレリアとグルなのだろうがな。ああ、ちくしょう。もっと警戒しておくべきだった。まさかあいつが自分の腕をナイフで切りつけるようないかれた奴だと思わなかった」

 リュシアン様は苛立たしそうにそう言った後、頭を抱える。

「リュシアン様……」

「俺は今日緊急会議に行かなければならないから、お前は絶対にそこを出るなよ。ノックされても今みたいに迂闊に開けるな。わかったか」

「リュシアン様、大丈夫なのですか」

「さぁな。でも、何とかするしかない」

 私はもう気が気ではなかった。待ってくださいと引き止めようとしたけれど、リュシアン様は有無を言わさず扉を閉めて出ていってしまった。
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