私の愛した彼は、こわい人
 私が混乱する傍ら、ジンさんが突然テーブルを勢いよく叩きつけた。

「てめぇ。今その話は関係ねぇだろ!」
「なにを焦っているのかな、神楽。いや──菊池リュウ」
「……その名で呼ぶんじゃねぇ!!」

 ジンさんがタクトの胸ぐらを勢いよく掴み取る。怒りと共に、ジンさんの表情には焦りが垣間見えた。
 そんな彼を嘲笑うかのように、タクトの話は止まらない。

「アスカは知らないよねぇ。こいつの家庭事情を」
「……なにが?」
「ヤバい奴なんだよ、父親が。ヤクザの幹部でさぁ」
「黙れ小野!!」
「ああ。怖い怖い。その凶暴性、血は争えないね。さすが反社の息子だ」

 今にもタクトを殴り飛ばしそうなほど興奮するジンさんを、私は無心で眺めた。
 もう、やめて。今は大事な話をしてるんでしょう……?

「なあ、アスカ。こいつは裏社会の人間なんだ。僕を差し置いて、こんな奴と一緒になることはないよ。新しい命も授かったことだし、これを機に僕のところに戻っておいで」

 タクトはジンさんの手を振り払い、不気味なほど穏やかな口調だった。
 わけわかんないよ。ジンさんのお父さんが、裏社会の人……?
 突然の話に戸惑う反面、今の私はほぼ無関心だった。
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