失恋相手と今日からニセモノ夫婦はじめます~愛なき結婚をした警視正に実は溺愛されていました~
 ゴミ箱にあったチョコを持ち、私はその場を走り去った。

 そんなに迷惑だった? 捨てるほどに?

 走っている途中で涙がこぼれ落ちそうになるのを必死に我慢した。

 傷ついているのは、私が贈ったものを捨てられた事実のほかに、これを作った両親の思いも蔑ろにされたからだ。

 心を込めて丁寧にチョコレートを作っていた父や、ひとつずつ綺麗に包装していた母の姿が思い浮かぶ。

 なんで、こんなひどいことができるの?

 彼女がいるなら、ほかの異性からのチョコレートなんて邪魔以外なにものでもないだろう。けれど、だったら必要ないと突き返してくれたらよかったのに……。

 妹の友達だからと気を使わせてしまったのかな。家で処分はできないだろうし。

 彼の気持ちを必死で汲もうとするが、無理だった。こんな真似をする人だと思わなかった。ショックで頭が回らない。

 わからない。けれど……私、嫌われていたんだ。

 視界が涙でぼやけて、はっきりしない。胸が苦しくて張り裂けそうだ。

 少しだけこのチョコレートに自分の気持ちをのせたのも事実で、結果的には手ひどい振られ方をした。とはいえ変に勘違いして、もっと傷つく前でよかったんだ。

 彼がどういう人間なのかもわかった。

 あれから光輝さんと顔を合わせる機会は何度かあったが、私は彼を避けるようになった。そのうち彼は国家公務員試験に合格し、かなりの成績を収め警察庁に務め出したと光希経由で聞いた。

 もう会わないし、住む世界が違う人だ。

 そう思っていたのに、まさかあんな形で再会するとは想像もしていなかった。
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