失恋相手と今日からニセモノ夫婦はじめます~愛なき結婚をした警視正に実は溺愛されていました~
 途中、公園に差し掛かったがあまり人はいない。ここはバスケットゴールが設置されていて、部活のない日は光希と練習に使ったりもした。

 ボールは持っていないが、誰もいないのをいいことに私はゴール下に近づく。スリーポイントラインに立って、ボールと投げるイメージをした。

 もう少し、ゴールを決める確率を上げないと。

 ドリブルはわりと得意なのだが、シュートは少しだけ苦手だ。

 制服姿でジャンプし、冷静になった私は帰ろうとする。

 え?

 そのとき、信じられない光景が目に飛びこんできた。公園に設置されているゴミ箱に見覚えのある紙袋が入っている。そばに寄って中身を出すと、カルペ・ディエムのチョコレートだ。

 いったい、誰がこんな真似を……。

 バレンタインだから告白に失敗した女性とか? でもなにも捨てなくても。

 そこで息が止まりそうになった。箱にはメッセージカードが添えられていた。

【いつもありがとうございます】

 差し障りのないメッセージ、宛名も送り主も書いていない。けれどこのカードを書いたのは私で、このチョコレートはまぎれもなく先ほど、光輝さんに渡したものだ。

 辺りを見回して、バスケットゴールとは反対側のところで男女ふたりが向き合って話している姿が目に入る。光輝さんと、綺麗な女性だった。

 彼女の手にも紙袋がある。なにを話しているのかはまったくわからないが、女性が男性の腕に自分の腕を絡めようとしていて親しげなのが伝わってくる。
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