失恋相手と今日からニセモノ夫婦はじめます~愛なき結婚をした警視正に実は溺愛されていました~
 もしも私たちが本物の夫婦だったら、こんな意識をすることも緊張もせずに済んだのかな?

 そこで思考が切り替わる。ちらりと横に視線を向けた。

 光輝さんは、私をなんとも思っていないから、動揺どころか、なにも感じてはいないだろうな。

 すると、光輝さんがこちらを向き、彼と思いきり目が合う。

「未可子が眠れなくなったら悪いな」

 今日の映画の内容についてだと理解し、ムッと眉をひそめる。

「子どもじゃないんですから。それに、子どものときも怖がったのは私ではなく妹です」

 律儀に返し、前に視線を戻す。

「……光輝さんが一緒だから大丈夫です」

 言うかどうか迷ったが、口にした。だって、本当だ。

「それは今の話か? それとも夜?」

 まさかの問いかけに、再び彼を見ると光輝さんはどこか余裕めいた表情だった。だから私も口角を上げる。

「どちらもですよ、旦那さま」

 お互い小さく笑い合う。そのタイミングで照明は落とされ、ふたりの意識はスクリーンに向いた。
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