失恋相手と今日からニセモノ夫婦はじめます~愛なき結婚をした警視正に実は溺愛されていました~
「最後のシーン、すごくびっくりして、まだ心臓が痛いです」

「いや、あれはどう考えてもなにか来るって演出だっただろ」

 やや涙目になっている私に、光輝さんはあきれた面持ちだ。

 映画自体はすごくおもしろくて最後までハラハラさせられたが、ラストシーンに仕掛けがあるとは思わず、叫びそうになった。

 夕方に差しかかり、ショッピングモールに入っているお茶できそうな店はどこも混んでいたので、一度ここを出ることにして、車でそう遠くない小さなカフェにやって来た。

 光輝さんは何度か来たらしい。フランスのカフェをイメージした店内は照明が落とされ、人も少なく落ち着いた雰囲気だ。ミュゼットというバグパイプの響きがどこか懐かしい民族音楽 が耳に心地いい。

 席に着いて光輝さんとコーヒーを注文する。小腹が空いたのと甘いものが欲しくなり、私は店で一番人気と謳い文句のガトーショコラをセットにした。ほかにもカヌレやマドレーヌ、フィナンシェなどがショーケースに並んでいる。

「素敵なカフェですね。初めて入りました。メニューはもちろん、出されている焼き菓子も全部フランスのお菓子ですから、オーナーのこだわりがうかがえますね」

 店内に視線を飛ばし、この空間自体を楽しむ。調度品や店員の衣装までフランスを意識しているのがわかる。

「詳しいな」

「あ、いいえ。そんなには。両親の店はイタリア料理をメインにしていますが、欧州のいろいろな料理を研究して、たまにアレンジや季節限定で出しているんですますから 」

 その一環で自然と得た知識だ。両親が父が料理だけではなく、母とともに 異国の料理や文化についても 学ぶ姿を幼い頃から見てきた。そうやって常に新しいアイディアを生み出す姿勢を尊敬しているんだ 。
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