失恋相手と今日からニセモノ夫婦はじめます~愛なき結婚をした警視正に実は溺愛されていました~
「そうだな、よく口にしてはいる」

 もしかして光輝さん、自覚ない? 彼の言い回しに笑みがこぼれそうになる。きっと昔からそうなんだろうな。

 そういえば、マンションを訪れた際に私があげたチョコレートはどうしたんだろう? 家で食べているのは見たことがないけれど……。

 ふと、高校生のときに彼に渡したチョコレートの件を思い出す。あのときと一瞬、同じ末路を想像し、胸が軋んだ。

「ただ……好きだと言うなら、未可子の料理の方があてはまる」

 そこで、さりげなく光輝さんが続けた言葉に目を瞠る。

「未可子だって働いているのに、つい料理は甘えているな。いつもありがとう」

「……どういたしまして。お気に召していただいているならうれしいです」

 過去の件は気にしないでおこう。あのとき、たとえ私の気持ちが彼にとっていらないものだったとしても、今は私の作った料理をおいしく食べてくれているなら、十分だ。彼の役に立てているならうれしい。

「光輝さん」

「光輝さん?」

 私も光輝さんにお礼を言おうとしたら、ほぼ同時に別のところから彼を呼ぶ声が飛んできた。

 意識を向けると若くてかわいらしい女性がこちらに近づいてくる。背中まであるアッシュブラックは、ストレートで艶があり彼女が歩くたびにサラサラと揺れる。

 ライラックカラーのシフォンブラウスにベージュのプリーツスカートと清楚で上品な佇まいは、光輝さんとどこか似ている雰囲気をまとっていた。
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