失恋相手と今日からニセモノ夫婦はじめます~愛なき結婚をした警視正に実は溺愛されていました~
「だから私もついお店の内装やメニューをチェックしちゃって……。こんな素敵なお店、今まで知らなかったので、光輝さんと来られて幸せうれしいです」

「未可子が気に入ったならよかったよ」

 うれしいような、はしゃぎすぎだとあきれられたのか。そのタイミングで注文の品が運ばれてきたので、気を取り直す。

 ソーサーとカップには淡い色の花があしらわれ、縁は金色の帯が施されていた。カップ目で見てからコーヒーの香りを楽しむ。

 実家のカルペ・ディエムで出しているものと趣が全然違うが、素敵だ。カップに口をつけながら光輝さんを盗み見する。

 コーヒーを飲む姿ひとつで絵になるくらい素敵だ。細身なのに袖から覗く前腕は筋肉がついているのに引きしまっていて無駄がない。ある意味、うらやましい。

 あの手に触れられたら、どんな気持ちになるのかな?

「どうした?」

「い、いいえ」

 慌てて思考を振り払う。

 なにを考えているの、私は……。

 気を取り直してガトーショコラにフォークを入れる。口に入れると、コーヒーの苦さと抜群の相性の甘すぎない味に感動した。

「おいしい」

「そんな顔をしている」

 私のつぶやきに光輝さんが微笑んだ。その表情が優しくて見惚れる。

「光輝さんもチョコレート好きですよね」

 わずかに間が空いて、彼に返す。すると彼はわずかに考えるそぶりを見せた。
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