失恋相手と今日からニセモノ夫婦はじめます~愛なき結婚をした警視正に実は溺愛されていました~
 俺と娘との縁談を意気揚々と持ちかけてきた竹中局長本人よりも、まさか娘の方にここまで執着されるとは予想外だった。

 未可子と結婚しても彼女からの押しの強さは変わらず、拒絶の意思を示すもまったく意に介さない。なにが彼女をそこまでさせるのか。

 俺の外見か、肩書きか、はたまた鷹本化成とのつながりか。

 恋愛感情なんてもってのほかで、どっちみち俺自身に興味があるわけではない。

 変に期待させず、既成事実もつくらせない。徹底して一線を引く。竹中局長の娘でなければ、とっくに切り捨てているところだ。

 よく、差し入れと称したチョコレートを渡されるが、けっして自分だけでは食べず、金平やほかの者に分けるようにしている。

 一応、礼儀としてお礼の品も用意したが、わざと『妻がプレゼントしてくれておいしかったので、よかったら』と付け加えておいた。

 今日、あのカフェに彼女が現れたのは偶然か。俺の妻である未可子見たさにやって来たのなら、それで気が済んだのか。俺自身なら適当にかわすが、未可子を傷つけたり、不快にさせたりするなら絶対に許さない。

 ふとパソコン画面に目をやると、アップロード完了の文字が表示されていた。パスコードを入力し、厳重にセキュリティロックされたデータベースにアクセスして、今しがたまとめられた情報に目を通す。

「鷹本さん。この後部長から話があるそうです。今回の件で確認を取りたいと」

「わかった」

 やや興奮気味に金平が告げてきた。一方、緊張の色が隠せていない。
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