隠れ御曹司の恋愛事情(改稿版)
僕の将来は花形グループの次男として生まれた時から決まっていた。
グループを継ぐのは兄で、僕はそのサポート役。そのことにはなんの不満もない。
兄は性格に問題はあるけれどひどく優秀だったし、統帥としての才覚もある。人の上に立つカリスマ性。それは天性のものだ。
そんな兄に認められたい。
照れ臭くて口には出せなかったけれど、内心ではそう思っていた。だから本社で経営戦略のチームに入って、結果をあげようと努力してきたつもりだ。そんなある日。兄は本邸へと僕を呼び出した。
「透。お前に頼みたいことがある」
「兄さんが頼み事なんて珍しいね」
本邸に呼び出され兄の部屋に行けば、用意された紅茶を飲むこともなく、早速とばかりに用件を切り出された。
「まぁな。俺は今ホテルの代表取締役になっているが、数年後にグループの子会社に社長として就任することになった――お前には事前にその会社の系列に営業として入って貰いたい」
「は? なんで……」
率直な疑問にそれくらい察しろ、といわんばかりに大きい溜息を吐かれた。
なにヤレヤレアピールしたんだ。説明くらいはきちんしろよ。こっちはその報告今初めて聞いたんだぞ、という気持ちで笑みを打ち消す。
じっと真顔で見つめれば、クツクツと喉の奥で噛み殺すように笑われた。
「お前は何でもかんでも顔に出すぎるな」
「別に身内だけの時くらいは良いでしょう。ずっと愛想良くしていると疲れるです」
本来の僕は仏頂面だし、言葉使いだって悪い。けれどそんなこと外に出しては、それ見たことかと攻撃される対象になってしまうから、なるべく隠していた。僕がこういう風に素を出す相手は家族くらいなものだ。
(笑顔は武装だ)
神経が擦り減る代わりに、ニコニコと笑っているだけで、相手は勝手に優しい人だと誤認してくれる――女性ならば尚更。
使えるものはなんでも使うし、それを利用して何が悪い。そう思う自分はかなり性格が悪いのだろう。
「そんなんだから彼女が出来ても長続きしないんだろ。はぁ~。兄ちゃんは悲しいなぁ」
「……早く本題に戻らないなら部屋に戻りますよ?」
よよよ、と泣き真似をされて鳥肌が立った。
ガタイの良い兄にぶりっ子されても気持ち悪いだけだ。ついでに言われていることが図星だからこそ腹が立つ。
向こうから好意を伝えられて付き合ったというのに大抵は『誰にでも優しい』『特別扱いもしてくれない』『本心が見えない』と最終的には振られることが多かった。
かといって家に居る時のように過ごせば『怒ってる?』と聞かれるのだろう。もう面倒だと思うようになってしまって、ここ数年は異性と付き合っていなかった。
自分としては楽になったと思うのに、最近ではそのことを家族に揶揄われるものだから溜まったものではない。
「見合いの釣書だって山のように届いているのになぁ」
「そんなもの燃やしておいてください」
「良い人は居ないのか?」
「聞き方オヤジ臭いですよ」
「こんな良い男を捕まえて、オヤジ臭い訳があるか!」
よし。なんとか見合いの話を誤魔化せた。