隠れ御曹司の恋愛事情(改稿版)


(そういえば、花咲さんってどんな人なんだろう?)

 彼女の人となりは書類で見たに過ぎない。
 営業で入ったから、外回りが多くて、まだ全員とは話せていなかった。

 だから、彼女が僕の営業補佐になるようにと打診された先の反応が気になった。
 こっそり覗いてみると、花咲さんは姿勢良く立って、営業部長と対峙していた。そして、僕の補佐になるのを喜んでいる様子はない。


 それどころか、どう断ろうか苦心しているようにも見える。
 その態度に、僕は彼女にこそ補佐になって欲しいと願った。
 だから、話に割り込むことにした。
 突然現れた僕に営業部長は目を丸くして、花咲さんはこっそりと顔を顰めていた。
 両極端な反応に笑ってしまいそうになる。
 そして、話し合いの末。花咲さんが僕の補佐になることが決まった。



***


 花咲さんが補佐になって二ヶ月。予想以上に花咲は優秀だった。
 書類の作成を頼めば早くて丁寧だし、客先への電話を任せても、安心していられる。


(やっぱり花咲さんが補佐で良かった)

 こまめな気遣いをしてくれる花咲さんに感謝して、こっそりとお菓子を渡す。営業先で貰ったんです、という建前で彼女にあげれば、ほんの一瞬。彼女の目が輝いたような気がした。

 けれど、すぐに元の表情に戻った彼女はいつも通り淡々とした態度で頭を下げる。



 そしてその数日後。僕は見たのだ。
 昼休みにの時間を使って、営業から会社に戻る道中。
 会社近くの公園で、花咲さんを見かけた。せっかくだから、声を掛けるか。そう思って近付けば、彼女はココア缶を開けて、こくりと嚥下させる。嬉しそうに頬を緩めた彼女の表情に胸がドキリと高鳴る。  


(普段冷静な彼女の様子を見ていたからこそのギャップ……!)


 思えば、あの時に僕は花咲さんに恋をしたのだ。


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