隠れ御曹司の恋愛事情(改稿版)


 あれから僕はこっそりと花咲さんの行動を見るようになった。

 というか、なんで今までちゃんと見てこなかったんだろう?

 少し高めな身長に、シンプルだけど清潔感のある服装。短く切り揃えられた爪に、距離を詰めた時にだけ分かるシャンプーの匂い。
 どうやら甘いものと可愛い物が好きみたいで、それらを目にすると表情が和らいでいた。

 けれど、どういう訳か。人前では積極的に甘いものは食べないし、キャラクターの物だって持ってきていない。
 だからこそ、彼女がココアを飲んでいたところを見れたのは幸運だったのだろう。


(距離を詰めていきたいけれど……)

 休日は何をしているんだろう。デートに誘ってみたい。
 それとも最初は、やはり。仕事終わりに飲みに行くのがセオリーだろうか。
 どんな店が良いんだろう?
 気が付けば花咲さんのことばかり考えている。
 花咲さんのことを考えるだけで、気持ちがふわふわとして浮いているような心地良い酩酊感に包まれる。


(これじゃあ、まるで思春期みたいだ)

 とはいっても、思春期の頃だって、女の子をデートに誘うのにこんなに緊張したことはない。
 デートスポットの書いてある雑誌を買っては読み込んで、花咲さんを食事に誘う練習を一人でしてみるーーのちにそれを世羅に見られて、さんざん笑い者にされたのはご愛嬌だろう。



***


 あれから一ヶ月。今日こそは彼女を食事に誘うつもりだ。
 いつもより、身なりに気合いを入れて、出社する。
 今日は金曜日だ。明日の心配をしなくても良いはずだ。


(あ、でも花咲さんは明日予定あるかな?)

 さすがに彼女の予定は把握していないものの、とりあえず今日『は』食事で終わらせるつもりだ。

(最初からがっついて引かれたくないから)

 絶対に成功させたかった。だからこそ、慎重にいかなければならない。
 浮かれて羽目を外さないように、アルコールも少量にしなければ……


(でも、花咲さんって酔うとどうなるんだろう?)

 会社の飲み会ではソフトドリンクを頼んでいた。もしかしたら、お酒は飲まないのだろうか。

(だったら、僕も合わせれば良いか)

 そう思い直して、仕事に精を出す。
 金曜日の大安に、花咲さんを食事に誘うんだ、と世羅に話すと、妹は「そこまで気にするの?」と驚いていた。
 気にするに決まっている。今日は勝負の日だ。少しでもげんを担ぎたい。


(絶対に今日は残業にさせない!)

 僕が残業になるということは花咲さんも巻き込むことになる。そうなったら、疲れて断られるのかもしれない。その可能性が少しでもあるのなら、なにがなんでも阻止しなければならない。


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