隠れ御曹司の恋愛事情(改稿版)



 オーダが届くまでの間。彼女は落ち着かない様子でわたしを見ていた。
 そしてわたし自身もこの状況に戸惑って、会話が弾んではいなかった。
 でも彼女の様子からして、敵対心は感じられない。
 だからこそ、なぜ彼女がここにわたしを呼び出したのかが分からなかった。


「すみません。予定も聞かないまま連れてきちゃって……」
「ううん。えっと、何かわたしに用があったの?」

 彼女はわたしの顔をじっと見て、ポツリと尋ねた。


「あの、兄のことなんですけど……」
「うん」

 沈んだ声に、やっぱり彼女は結婚を反対しているのかもしれないと思った。それで身構えたのだけど。

「本当に付き合ってるんですか?」
「え」
「あの、正直。ウチの兄。取り繕っていますが、かなり重たいですよね?」

 真剣な目で彼女が語る。心なしか軟骨つくねを齧る勢いも良かった。

「えっと」
「……もし兄に脅されているようでしたら、教えてほしくて」
「うん。大丈夫。脅されていないから……」
「でも、長年の片思いが実ったはずなのに、全然幸せそうな顔していなくて」
「それは……」
「やっぱり兄の妄想じゃないか、って家族会議をこっそりしたんです」
「えっ!」


 思ったよりも大事になっている。
 というか、財閥家の家族会議の議題がそれってどうなんだろう?

「一番上の兄なんか、人様の娘さんに何かあったらと心配しちゃってて」
「あの、だからわたしに真相を確かめにきたんですか?」
「はい。秘密はちゃんと守ります。だから正直に言ってください」
「大丈夫。ちゃんとわたしの意思で付き合っています」

 といっても、実際の交際時間はあってないようなものだけど。このまま桐山くんが自分の家族からあらぬ疑いが掛けられないように、そう言い切ることにした。

「本当に……!」

 わたしの言葉に彼女が目を丸くして、それから俯く。


(そうだよね。わたしみたいな一般庶民と付き合っているなんて反対だよね)

 桐山くんは自分の家族は反対しないと断言していたけれど、彼女の様子から察する。しかし。
 次の瞬間にはガシリと両手を握られた。

「じゃあ。貴女がわたしのお姉様になるんですね! やったー!」
「うん? まだ付き合い始めただけで結婚するとは……」
「え? でも兄ももうすぐ二十八ですよ?」

 心底不思議そうな顔をしてそう返される。年齢のことを気にしているのなら、彼よりもわたしの方が二つ上だ。

「確かにお互いの年齢では結婚適齢期だけど、まだその付き合うと決めてから日が浅いし」

 桐山くんの名誉のために付き合うと決めた瞬間。婚姻届を出されたことは言わないでおこう。
 けれど、彼女は首を横に傾げた。


「えーっと、そうじゃなくて……」

 言いずらそうに視線を泳がす。

「桃子さんと結婚するための期限があること、兄から聞いていません?」


 なにそれ。初めて聞いた。


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