先生、それは取材ですか?

 コンビニのエロ本コーナーの前で立ち尽くすこと、約10分。

「やっぱ、取材だよな……うん、取材」

 心の中で言い訳しながら、椎名はそっと雑誌を手に取る。けれど、その瞬間、背後から声をかけられた。

「椎名先生?」

「っ!!」

 振り向くと、そこには担当編集の橘(たちばな)が立っていた。

「えっ、ちょ、なんで!? 橘、こんな時間に!」

「そりゃあ、先生が締め切りを前に失踪するから探しにきたんですよ」

 橘は呆れたように笑いながら、椎名の手元をちらりと見た。

「……なるほど、取材ですか?」

「っ……!!」

 顔が一気に熱くなる。

「ち、違う!! これは、その……」

「いいですよ、別に。先生がどんな取材をしてようと、僕はプロとして応援しますんで」

 にこりと笑う橘。その余裕たっぷりな態度が、逆に恥ずかしい。

「……うぅ……」

「ただ、リアルな描写が足りないなら、僕でよければ協力しますけど?」

 さらりと言われた言葉に、椎名は一瞬、思考が止まった。

「……え?」

「先生の作品、大好きなんで。よりリアルにするためなら、なんでも協力しますよ?」

 ――それはつまり、どういう意味なんだろう
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