先生、それは取材ですか?

「先生?」

 橘が、じっとこっちを見ている。

「……えっと、今のってどういう意味?」

「そのまんまの意味ですよ。先生がリアルな取材をしたいなら、僕でよければ協力しますって話です」

「……」

 いや、そんな爽やかな顔で言われても。意味深すぎて逆に怖い。

「ちょ、ちょっと待って!?」

 思わず後ずさると、橘はくすっと笑った。

「冗談ですよ。そんなに警戒しなくても」

「……」

「でも、先生が本気で困ってるなら、取材に付き合うのはありかもしれませんね」

「ど、どういう取材を……?」

「そうですね……例えば、キスの角度とか、触れたときの体温とか?」

 さらっと言われた言葉に、脳がフリーズする。

「はっ!? なっ!? ちょ、ちょっと待って、それは!!」

「先生、顔真っ赤ですよ?」

 にやりと笑う橘。その余裕がなんか腹立つ。

「そ、そんな取材、するわけないでしょ!?///」

「そうですか? でも、先生のリストに書いてありましたよね?」

 ――え?

 スマホを見ると、さっきの「エロ漫画のリアリティを増すための取材リスト」が画面に開かれていた。

「あっ……!!」

 やらかした。さっきコンビニに来る前にメモを見てて、そのままロックしてなかった。

「へぇ……“男性の体温(触れる機会がない)”とか、結構切実ですね」

「見んなぁぁぁぁ!!!」

 恥ずかしさのあまり、思いっきりスマホを奪い取る。

「……ふふっ」

 そんな私を見て、橘はなんか楽しそうだった。

「まぁ、先生が本当に必要になったら、いつでも声かけてくださいね」

「っ……!!」

 そう言って、橘は軽く手を振りながらコンビニを出て行った。

(……何だったんだ、今の)

 橘の言葉を思い出すと、顔が熱くなる。

 ――本気で取材が必要になったら、協力する?

 そんなこと……ありえない。

「……ありえない、けど……」

 ふと、指先に残る橘の温もりを思い出してしまう自分がいて、余計に恥ずかしくなった。
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