先生、それは取材ですか?
編集長の言葉に、部屋の空気が凍りついた。
「せ、先生、これ……」
「うるさい! しゃべるな!!///」
橘の腕をバシバシ叩きながら、私は必死に誤魔化す言葉を探す。
「いや、その、違うんです編集長!! これは、ほら、取材で!!」
「……取材、ねぇ」
編集長は腕を組んで、ジト目で私を見る。
「それにしたって、夜中に二人で同じ布団にいる取材って、一体なんのリアリティ追求?」
「うっ……」
「先生、取材に熱心なのはいいけど、雑誌に載せられないような取材はダメって言ったよね?」
「そ、そんなことは……っ」
「まあまあ、編集長」
ここでなぜか橘が口を挟む。
「先生はとても熱心な方ですし、よりリアルな作品のために、こういう経験も必要なんじゃないですか?」
「お前は黙れぇぇぇ!!!」
「ふーん?」
編集長がじとーっとした目で橘を見たあと、私の方に視線を戻す。
「……ま、私は仕事に関係ないことには口出ししないけど」
「ほ、ほんとですか!?」
「ただし――」
「ただし?」
編集長はニヤリと笑い、次の言葉を放った。
「次回の原稿、今の取材を生かした内容にしてもらうからね?」
「…………は?」
「ほら、ここまでしてリアリティ追求してるんでしょ? だったら作品に落とし込まないとね」
「いやいやいや!? そ、そんなの無理ですって!!」
「ダメ」
編集長の即答。
「じゃなきゃ、今ここで何してたのか、詳細に報告するけど?」
「…………」
「…………」
「……原稿、書きます」
「よろしい」
ニコッと微笑む編集長。
――こうして、私は絶対に後戻りできない方向に追い詰められたのだった。