先生、それは取材ですか?
スカウト
「……え?」
橘の口から出た言葉が、うまく理解できなかった。
「だから、他の出版社からスカウトが来たんです」
「スカウト……?」
「ええ、先生の作品を担当してるって話を聞いて、ぜひうちでって」
冗談みたいな話。でも、橘の表情は真剣だった。
「……それで、どうするの?」
私はできるだけ冷静に聞いたつもりだったけど、指先が小さく震えているのが自分でも分かる。
「……正直、悩んでます」
橘はそう言って、申し訳なさそうに笑った。
「……悩むんだ」
「……先生?」
「いや、なんでもない」
本当はなんでもなくない。でも、これ以上何を言えばいいのか分からなかった。
「……決まったら、教えて」
そう言うのが精一杯だった。