先生、それは取材ですか?
なんでこんなにペースを乱されてるんだろう。私はあくまで漫画を描くために取材を――

「でも、先生」

橘の声が低くなる。

「本当は、興味あるんじゃないですか?」

「……!」

言葉を失う。

「僕、先生の漫画、結構好きですよ」

「っ……?」

「リアリティのある表情とか、仕草とか……。でも、先生はもっと“経験”した方が、いいもの描けると思うんですよね」

橘はさらっとそう言って、椅子から立ち上がる。

「じゃ、また」

そう言って、帰ってしまった。

私はその背中を呆然と見送るしかなかった。

(……興味が、ある?)

自分の胸に手を当てる。さっきまでドキドキしていたのが、まだ残っている。

(そんなわけ……ないのに)

なのに、橘の言葉が頭の中でぐるぐる回って、消えなかった。
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