孤高の弁護士は、無垢な彼女を手放さない
定食屋のランチタイムは、いつもより少しだけ静かだった。
テレビの音と、客たちのざわめき。
だが、3人のテーブルだけは、空気が重かった。

「そういえばさ」
茜が箸を止めて、ぽつりと切り出す。
「岩崎の件、どうなったの? 紬、人事に話聞かれたんでしょ?」

紬は少しだけ箸を持つ手を止めて、曖昧に笑った。
「うん。まあ、一応……」

言い淀んだその表情に、あかりがすぐに反応した。
「ちゃんと対応してくれたの?」
その声は優しく、それでもどこか切実で。

紬は軽くうなずいたが、すぐに視線を落とす。
「全部話したよ。思い出したくもないのに、無理して。……でも、あんまり期待してない」

「え……?」
茜とあかりの動きがぴたりと止まった。

「話し終わった後に言われたの。『あなたにも、隙があったんじゃないですか』って」
紬の声は静かだったが、どこか乾いていた。
「……言わなきゃよかったって、ほんと思った」

その瞬間、茜が勢いよくテーブルを叩いた。
「なにそれ!? はあ!? 信じらんない。どの口がそんなこと言ったの!?」
あかりも目を見開いて、ショックを隠せない顔で、ただ紬を見つめていた。

「処刑だな、人事課のやつ」
茜は真顔でつぶやき、わずかに震える声で箸を握り直す。
「次はそっちいくわ。マジで」

紬は、小さく笑った。
「ありがとう。……でも、岩崎と一緒になることは、たぶんもうないと思う。向こうが勝手に騒いでるだけだし、まだそこまでひどいことにはなってないから」

あかりが心配そうに言う。
「でもさ、また何かあったら絶対言ってよ?」

紬は、コクリとうなずいたあと、少し声を低くして続けた。
「もしあまりにひどい対応だったら、会社の内部通報制度使うつもり。そっち経由のほうが動くんじゃないかな」

その言葉に、あかりと茜は顔を見合わせると、ふっとため息をついた。

「……やっぱ、泣き寝入りしないって選んだ紬、かっこいいよ」
「うん。絶対、私たちも味方でいるから」

その言葉が、紬の心に少しだけ、温度を灯した。
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