策士な外交官は計画的執愛で契約妻をこの手に堕とす

(私に、女性としての魅力が足りないから? それとも、本当に好きな女性とじゃないと最後まではしたくないとか?)

伊織と過ごす時間が増えれば増えるほど、千鶴は彼に惹かれていく。ふたりで食事をする些細な時間も、手を繋いでデートしている時も、彼に触れられる土曜日の夜も、千鶴にとってはすべてが幸せだった。

『生涯その人だけと思える人と結婚したい』という願望は叶えられているのだ。これ以上望んではバチが当たる、見返りを求めるなんて傲慢だと自戒する気持ちと、本当の夫婦になって愛されたいという願望がせめぎ合う。

「千鶴? どうかした?」

ぼうっと考え事をしていたせいで、伊織が心配そうに顔を覗き込んでくる。

「ごめんなさい、なんでもないんです。映画、楽しみですね」

千鶴は声をひそめて微笑んだ。

愛のない結婚だというのは承知で頷いたのは自分自身。まだ入籍して二週間しか経っていないのだ。焦らずに、自分たちなりの夫婦としての形を作っていけばいい。

千鶴はそう言い聞かせ、愛する夫とのデートを楽しもうと気持ちを切り替えた。

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