旦那様、離婚の覚悟を決めました~堅物警視正は不器用な溺愛で全力阻止して離さない~
 長い沈黙に思えたけれど、母も私の両方の意図を汲んでくれたらしい。
 深呼吸と思しき吐息の音が二度続けて聞こえてきた後、母の軽やかな声が車内に響き渡る。

『あら、そうなの? さっき和永さんがいらしてね、あの子まだ帰ってないのって話したんだけど、それも追加で伝えておくわね』

 少なくとも表面上は取り乱す様子がない母の声を、微かな安堵とともに聞く。最後は「じゃあまた後でね」とごく普通の挨拶で通話を終えた。
 通話終了のボタンをタップすると、それまで黙って通話に耳を傾けていた比留川が、不機嫌そうな声に戻って問いかけてくる。

「ねぇ誰それ、旦那? 本当にいたんだ?」

 訊いてくる比留川の声はまだ猫撫で声を保っていて、けれど刺々しさが増している。

「そんなことで嘘なんてつきません。もう停めてほしいんですが……これ、犯罪ですよね」
「は? 誰が停めるかよ、だいたいお前の旦那に話が伝わったからってなんだっつうんだ警察でもあるまいし」

 口調が急に乱暴になった。
 いずれは剥がれると分かっていた化けの皮があっさり剥がれた、その気配を肌で感じ取る。
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