旦那様、離婚の覚悟を決めました~堅物警視正は不器用な溺愛で全力阻止して離さない~
 吐き捨てるような比留川の声を聞きながら、いや警察なんだよな、と心の中で呟いた。
 もちろん、今それを言葉にしてはならない。咄嗟に言い返してしまいたくなる衝動を堪え、私はきつく唇を引き結ぶ。

(それにしても、この人……さっきも『通報』って言葉に突っかかってきたけど)

 思わず眉が寄る。
 今も『犯罪ですよ』と伝えるや否や、比留川の語調はそれだけで乱れた。そこはかとなく焦っているようにも見える。

 ただ、私を誘拐してなにをしたいのか、肝心のその点が見えない。
 私を誘拐して、比留川は一体なにをしたいのか。

(……怖い)

 吐き出す息が震えてしまう。
 この車に乗ったのは間違いだった。でも、あの場で大声を出して周囲に助けを求めたとして、誰かが異変に気づくよりも先に力でねじ伏せられるだけ……そうとしか考えられず、怖くて従ってしまった。

 あのときの比留川のギラついた目を思い出すと、背筋がぞっとする。今も怖くて目を合わせられない。
 母への電話が遮られずに済んで本当に良かった。私が比留川に連れ去られたという情報も、今頃きっと母が和永さんに伝えてくれている。
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