旦那様、離婚の覚悟を決めました~堅物警視正は不器用な溺愛で全力阻止して離さない~
 テーブルの上を、微かに抱いていた期待ごと片づけていく。
 夕飯を作ったこと自体が嘘みたいに、綺麗になにもなくなったテーブルを一瞥してから、私は寝室へ向かった。

 私しか使っていない寝室だ。
 和永さんは寝室には足を踏み入れない。帰った夜には、必ず彼の私室で休むから。

 ベッドをぼうっと眺めていたら、また涙が零れた。
 それを拭う気すら起きないまま、私は化粧台の前に座り、引き出しからクリアファイルを取り出した。ファイルの中には、半分に折り畳んだ書類が一通入っている。

 離婚届だ。なにも記入されていない、まっさらな。
 結婚して間もない頃から、私はこれを、和永さんには伏せて用意していた。彼の望む条件を私が呑みきれなくなったとき、すぐに傍を離れる選択ができるように――そんな思いで、これをお守り代わりに、このいびつな結婚生活を送り続けてきた。

 今日がその日なのだと、唇を噛み締める。

(……ごめんなさい。約束、私だけ守れなくなってしまって)

 まだ乾いていない瞼をそっと拭う。
 それから、引き出しに一緒にしまっておいたペンを手に取り、私は氏名欄に自分の名前を書き込んだ。
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