旦那様、離婚の覚悟を決めました~堅物警視正は不器用な溺愛で全力阻止して離さない~
 壁にもたれつつ告げると、目の下にくまを刻んだ織田原は冗談めいた返事をしながら笑った。こちらはといえば、今の話に笑う要素があっただろうかと眉が寄ってしまう。

 喋りながら差し出された一本を、手振りだけで断った。
 断られるのは承知の上だったらしく、それにそのまま火を点けて吸い出した織田原の呆れ声が、じりじりと薄く続いている頭痛と苛立ちに拍車をかけてくる。
 苦い気分で灰皿を一瞥してから目を逸らし、額を押さえたそのとき、へらへらと笑みを浮かべていた織田原が急に神妙そうに表情を引き締めた。

「お前こそ昨日くらい早く帰っても良かっただろ。大丈夫かよ、奥さん怒ってねえの?」
「は?」
「ちゃんとフォローしとけよ、変に不満が積み重なっちまう前に。バツイチ同僚からの渾身のアドバイスですよこれ」

 珍しく眉を寄せ、煙を吹き出しながら自虐めいた笑みを浮かべてみせた織田原を、訝しく眺めてしまう。

 フォロー……なんの話だ。
 言われてみれば、昨日は妻から電話があった。勤務中に電話がかかってきたのは初めてで、それも着信は昼に入っていた。

 緊急かと焦って折り返したのは日が暮れてからだったが、向こうが切り出してきたのは『早く帰れそうなら一緒に食事を』という緊急性もなにもない話だった。その後もなにか言いかけていたが、そのタイミングで声がかかって通話を切らざるを得なかった。
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