旦那様、離婚の覚悟を決めました~堅物警視正は不器用な溺愛で全力阻止して離さない~
 忙しさと疲れにかまけて忘れかけていた、妻のやや不可解な言動を思い出し、さらに深く眉が寄る。

「なんの話だ」
「なにって、昨日だったろ。お前んとこの結婚記念日」

 気遣いの滲む返事を受け取った直後、息が止まった。
 寝不足で鈍った耳に、それでもはっきりと〝記念日〟という言葉が突き刺さる。

「……は?」
「いや、式に呼ばれた連中の間では有名だろ。『七夕に挙式だなんて能見さんって案外ロマンチストなんですね~』的な……おい、能見?」

 血の気が引いた理由は、疲れでも寝不足でもなかった。
 完全に忘れていた。わざわざ日中に電話をかけてきたのもその件だったのかも……いや、それ以外に考えられない。

 熱を出した日さえ助けを求めてこないような人なのに、昨日あんな電話があった理由。
 思い当たる節が本当にないのか、もっと真剣に考えるべきだった。

「帰る」
「お、おう。気をつけてな」

 織田原の労いの言葉を最後まで聞き入れることなく、早々に喫煙室を後にする。

「……ありゃやべえぞ……」

 背後から弱々しい織田原の声が聞こえてきたが、もう返事をしている余裕はなかった。
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