旦那様、離婚の覚悟を決めました~堅物警視正は不器用な溺愛で全力阻止して離さない~
 いい暮らしをさせてもらっていると思う。
 休日には自由に過ごして、仕事だって高給とまでは言えないけれど無理なく続けられていて、その上経済的な負担は昔ひとり暮らしをしていた頃よりもずっと軽い。家事の一部も外注にしてもらえていて、十分どころではないほど恵まれている自覚もある。でも。

 時が経つにつれて変化が現れてしまったのは、私の気持ちだ。

 歩きながら、思わず溜息が零れた。
 腕時計を見る。考えごとのせいでのんびり歩きすぎてしまった。少し急ごうと私は歩幅を広げ、そのさなかに道中の小さな花屋へふと目を向けた、そのとき。

 大きく一歩を踏み出したばかりの足が、動きを止めた。

(和永さんだ……)

 通りに並ぶこぢんまりとした花屋のガラス張りの窓から覗いたのは、間違いなく夫の顔だった。

 花屋の窓際に並ぶ鮮やかな胡蝶蘭に、通勤のたびなんとなく目を向けてしまう。誰に迷惑をかけるわけでもない自分のその癖に、今日ばかりは悪態をついてしまいそうになる。
 店員の女性と話し込んでいる様子が窺える。ドアが開きっぱなしだからかもしれないけれど、それぞれの声が外まで響いてくる。〝響く〟と言って差し支えない程度にはふたりの声は大きく、ときおり言い争っているような調子も帯びる。
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