旦那様、離婚の覚悟を決めました~堅物警視正は不器用な溺愛で全力阻止して離さない~
 料理は、私が一番好きな家事だ。
 小学生の頃から母と一緒に料理をするのが好きだったし、独り身だった頃は、休日に料理教室にも通っていた。

 お嬢様育ちの母は、家事の大半が苦手だということを、家族にも、そしておそらくは彼女の友人や知人にも隠していない。
 けれど昔から、食事の支度だけは手を抜かなかった。私が幼い頃からずっと。

『大事な人が食べるご飯は自分で作りたいっていう、お母さんなりの我儘なの』

 何度も聞いてきた母の口癖が脳裏を過ぎり、不意に手が止まる。
 私は、好きで好きで堪らない人と結婚した母とは違う。自分が勝手にやっているだけ。それを、私はきちんと肝に銘じておかなければならなかった。

 それが和永さんとの約束を守るための、私なりの一線だったのに。

「あの、できました」

 トレイに載せたお茶碗を運びながら、おずおずと声をかける。
 キッチンで忙しなく動いている間、ときおり視線を感じてはいた。はっと我に返った様子で立ち上がって私からトレイを受け取った和永さんが、遠慮がちに尋ねてくる。
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