ずぶ濡れ女子の誘惑に負けてHしてしまったけど、どうやらHしてはいけない子だったようです。



「ちょ!?だ、大丈夫ですか!?」

 さすがにこの状況を無視するわけにいかず、その女の人に慌てて駆け寄って声をかけた。

「う”~ん……」
「えっ……どうしよう。救急車呼ばなきゃかな?」

 顔が真っ赤で苦しそうに唸っている。急性アルコール中毒かもしれな。そう思った俺は、ベンチで横になる彼女に傘を掛けつつ、鞄からスマホを取り出して救急車を呼ぼうとした、その時。

 ガッ!!

「おわっ!?」

 スマホを鞄から取り出した瞬間、雨に濡れた彼女の手が、俺の手首を掴んだ。
 そして。

「たっくんのばかぁ~……」

 顔を雨と涙でぐしゃぐしゃに濡らしながら、彼女は絞り出すように言った。

「あ、あの……大丈夫ですか?気分とか悪くないですか?救急車呼びますか?」

 俺がそう言うと、彼女はのそのそと体を起こし、しゃがむ俺のことをじっと見下ろした。

「……あなた、だあれ?」
「え?俺?通りすがりのサラリーマンだけど……」
「ふーん……」

 彼女は眉間にシワを寄せながら、怪訝な顔をした。俺を見下ろす彼女の目は……まるで、不審者でも見ているかのような目だ。
 ……おいおい、俺は不審者じゃねぇからな!と、内心で思いながら。

「そんなことより、結構な量のお酒を飲んでるみたいですけど、体調は?気分悪くないですか?急に倒れるようにしてベンチに横になったので、心配になって声かけたんですけど……」

 と〝俺は不審者じゃないですよ〞アピールをしつつ、彼女に聞いた。すると。

「気分~?そりゃあ悪いですよぉ~……彼氏が浮気したくせに、ぜんっぜん認めてくれなくて~……も~あいつ大ッ嫌い!!」
「いやあの、そういう意味の気分悪いじゃなくて……」
「……もう、あいつと別れちゃおっかなぁ……」

 寂しそうに俯く彼女。その表情(かお)を見ていると、何だか胸がきゅっと締め付けられた。その浮気疑惑の男のことが、本気で好きなんだなって感じられた。


 ザーーーーーッ……


 だんだん、雨足が強くなってきた。バラバラと傘に当たる雨粒の音も大きくなり、その音が傘の中でよく響く。
 俺は。

「あの……こんなところで濡れてたら風邪引きますよ。その、俺ん家なんかで良ければ……雨宿りしませんか?」

 このまま彼女をほっとくことなんてできず、俺は彼女にそう聞いた。





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