次期ホテル王として戻ってきたイジワル幼馴染に溺愛されています
 彼はVIP専用カードを何食わぬ顔でエレベーターのタッチパネルに触れさせると、最上階まで私を連れてきた。おまけに、バーへも難なく入ってみせた。

 ――一体、彼は何者なんだろう。

 此処へ来るまでの間、そんな疑問ばかりが膨らんで、スツールに腰掛けたときには涙も引っ込んでいた。

「普段、お酒は飲まれますか?」
「たまに……。お酒は好きなのですが、そんなに強くなくて。それに職業柄、後に引くものは飲まないようにしていて……」
「それはいい心掛けです。でも今日ぐらいはいいのでは?」

 男性がカウンターの向こうに控えていたバーテンダーに目配せをして、カクテルを注文する。
 あまり馴染みのないカクテル名だったけれど、出てきたグラスの色は鮮やかな緑色で、見た目が爽やかだった。

「テネシー・クーラーです」
「てねしー、くーらー……?」
「馴染みないですか?」
「たぶん、飲んだことないです」
「爽やかで美味しいですよ」

 彼に勧められるがまま、アルコールに口をつける。さっぱりとした甘みと、レモンの酸味が鼻を抜けた。

「あの日の約束、という意味があるカクテルです」
「へぇ……。物知りですね」
「いえいえ、そんなことは」
「あの日の約束、かぁ……」

 約束、と聞いて、さっきまで婚約者だった恋人から婚約指輪を貰った日のことを思い出す。
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