隣の部署の佐藤さんには秘密がある
「なんのモデルをやるんですか?」
「クロードっていうブランド。」
「クロード?サンチェス=ドマーニとは真逆のブランドですね。」

「うん。でも、うまくいけばサンチェス=ドマーニも着られるようになるかもしれないって言われたから、頑張ろうと思うよ。」
「絶対できると思います!佐藤さんのサンチェス=ドマーニが1番ですから。」

「ファッションショーに出たら見に来てくれる?」
「もちろんです!チケットがあったらですけど。」

「チケットはあげるから心配しないで。」
「でも、サンチェス=ドマーニのモデルじゃないんですよね?」
「うん。気が早いか。ははは。」

 さきと手を繋いで楽しく話していた晃太は立ち止まった。すぐ近くに黒塗りの車が停車して、磯山が降りてきた。

(なんでこんな時に来るんだよ。)

 家のことはまださきに話していない。

「磯山さん、後にして。今は……」
「相談役が倒れられました。すぐにお越しください。」

 ズキンと胸に痛みが走った。祖父とは昨日会ったばかり。サンチェス=ドマーニのスーツが欲しいと言われて、その後も楽しく会話した。とても倒れるようには見えなかった。どうして急にそんなことになってしまったのだろうか。

「晃太様、お急ぎください。」
「待って、さきも一緒に…………え?」

 隣を見たら、さきはいなかった。繋いでいたはずの手もいつの間にか離れていた。周囲を探してもさきの姿は見当たらない。

「お急ぎください、晃太様!」

 晃太は拳を握りしめて磯山の車へ向かった。
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