隣の部署の佐藤さんには秘密がある
 危険な状況だと言われていた祖父は手術の末、一命をとりとめた。話すことはできないが、朝方には意識が回復してつい先ほど帰宅した。晃太はスマホを見ながら出勤の準備を始めた。

 夜の間にさきから連絡が来ることはなかった。状況を説明したいけれど何からどう話せばいいのかわからない。すると、スマホが光ってポップアップが表示された。

『熱があるので会社はお休みします。』

 すぐに電話を掛けようとして思いとどまった。熱があるから寝ているかもしれない。しかし心臓の音は異様なほどに脈打っている。晃太は自分を取り繕って『ゆっくり休んでね』と返信したが、一日中動悸がおさまらなかった。仕事に集中することができず、普段はやらないようなミスをした。晃太は上司の本城に言って早めにあがらせてもらい、健斗のBARへ向かった。

 健斗は放心状態の晃太が心配になって声をかけた。

「どうしたんだ?体調が悪いのか?」
「さきが休みなんだ。熱が出たって……」
「そりゃ心配だな。昨日は元気だったのに。」

「大丈夫だよね?さきは治るよね?」
「熱が出ただけだろ?心配し過ぎだ。」

 健斗は過保護な晃太を笑った。しかし晃太の目は虚ろだ。

「昨日、じぃちゃんが倒れたんだ……土曜日には元気だったのに、倒れて意識が無くて……さきも昨日は元気だったのに……!」
「そんなに心配するな。すぐ治る。」

 健斗がウイスキーを差し出すと、晃太はごくごくと飲み干した。

「健斗、彼女が病気のときはどうすればいいの?電話してもいいの?」
「熱があるなら電話は辛いかもしれないから、メッセージ送っとけ。調子が良ければ返信が来る。」
「なんて送ればいいの?今送っていいの?夜だけど、寝てないかな?」
「だから、それくらい自分で考えろよ。」

 健斗がため息をつくと、晃太は肩を落とした。

「病気の彼女に連絡したことなんてないんだよ……」
「ほぇ~、とりあえず具合はどうか聞いて、心配してるってことを送っておけ。それで返信が来るまで待ってろ。スマホ見るのも辛いときはあるからな。」
「わかった。」

 晃太は両手でスマホを持って真剣に文章を打ち込み始めた。健斗がおかわりのウイスキーを差し出すと、晃太はぼそぼそと話しはじめた。

「昨日さ……さきを駅まで送っている時に、磯山さんが迎えに来たんだ。さきは気づいたよね。」
「特殊な家庭だということはわかっただろうな。」

「今日、話そうと思ってたんだけどな……」
「それは会って話せよ?」
「うん……」

 すると、スマホが光った。

「わぁ!来たっ!」
「良かったな。返信できるなら、ある程度は元気なんだろ。」

「えー、なんで健斗のことなんか心配するんだよ!」
「昨日会ったからだろ。優しいな、さきさんは。」

「さきは俺の彼女なの!彼女は彼氏の心配だけしてればいいんだ!どうして健斗のことなんかわざわざ送ってくるんだよ……」
「一人前に嫉妬するようになったんだな。」
「当たり前だろ?好きなんだから!」
「はいはい。」

 晃太が空のグラスを健斗に突き出すと、健斗は烏龍茶でもない常温の水をグラスに注いだ。
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