隣の部署の佐藤さんには秘密がある
勢いよくBARの扉を開けた私は、途端に頭が冷静になってしまった。佐藤さんが秘密にしていたことを、親友とはいえ他人に聞いても良いのだろうか。
「どうしたんですか?忘れ物ですか?」
「あ、いえ……」
口ごもった私を見た健斗さんは何かを察してくれたらしい。健斗さんは私をカウンターの席に座るように促して、鮮やかなオレンジ色のカクテルを出してくれた。
「何か見ちゃいましたか?」
私は静かにうなずいた。
「女性ですか?」
「いえ……車がお迎えに来たんです。黒塗りの車……そしたら中から執事の人が降りてきて……」
「あぁ、なるほど。」
「すみません。健斗さんに聞こうと思って来たんですが、だめですよね。佐藤さんは私に隠していたわけですし。」
「隠していたのではなくて、言う機会を伺っていたんだと思います。モデルやることもどう言えばいいかって、ずいぶん悩んでいましたから。」
私はオレンジ色のカクテルを飲んだ。酸味の奥に柔らかい甘みがある美味しいカクテルだ。
「美味しいですね。」
「ありがとうございます。彼氏にツケますから。」
そう言って、健斗さんはカウンターの脇から1冊の雑誌を持ってきてパラパラとページをめくった。
「あいつの口から聞くまでは、聞かなかったことにしてください。あいつのお兄さんはこの方だそうですよ。」
「みずい……えっ!?」
広げられたページには、水伊勢グループの若手社長、水伊勢龍司が載っている。水伊勢龍司が兄ということは、佐藤さんは水伊勢家の人なのだ。だから黒塗りの車が迎えにくる。そんな家の人が、彼女だからという理由で家庭の事情を簡単に話せるはずがない。
「私、何やってるんだろう……」
彼女なのにどうして教えてくれなかったのかなんて思ってしまった。佐藤さんは教えてくれなかったんじゃない、教えられなかったのだ。
「もうすぐ終電ではありませんか?」
「そうですね。健斗さん、ありがとうございました。助かりました。」
「また来てくださいね。」
「はい。」
私が好きなのは会社にいる佐藤さんだ。黒塗りの車が迎えに来ようが、執事がいようが関係ない。これまで通り佐藤さんのことを好きでいればいい。
度肝を抜かれるような美男子であることを前髪で隠し、陰キャのようなフリをして、ド派手なサンチェス=ドマーニを着こなす佐藤さんは、実は水伊勢家のご子息──
「秘密が多いなぁ、佐藤さんは。」
空を見上げると少しだけ星が見えた。
「どうしたんですか?忘れ物ですか?」
「あ、いえ……」
口ごもった私を見た健斗さんは何かを察してくれたらしい。健斗さんは私をカウンターの席に座るように促して、鮮やかなオレンジ色のカクテルを出してくれた。
「何か見ちゃいましたか?」
私は静かにうなずいた。
「女性ですか?」
「いえ……車がお迎えに来たんです。黒塗りの車……そしたら中から執事の人が降りてきて……」
「あぁ、なるほど。」
「すみません。健斗さんに聞こうと思って来たんですが、だめですよね。佐藤さんは私に隠していたわけですし。」
「隠していたのではなくて、言う機会を伺っていたんだと思います。モデルやることもどう言えばいいかって、ずいぶん悩んでいましたから。」
私はオレンジ色のカクテルを飲んだ。酸味の奥に柔らかい甘みがある美味しいカクテルだ。
「美味しいですね。」
「ありがとうございます。彼氏にツケますから。」
そう言って、健斗さんはカウンターの脇から1冊の雑誌を持ってきてパラパラとページをめくった。
「あいつの口から聞くまでは、聞かなかったことにしてください。あいつのお兄さんはこの方だそうですよ。」
「みずい……えっ!?」
広げられたページには、水伊勢グループの若手社長、水伊勢龍司が載っている。水伊勢龍司が兄ということは、佐藤さんは水伊勢家の人なのだ。だから黒塗りの車が迎えにくる。そんな家の人が、彼女だからという理由で家庭の事情を簡単に話せるはずがない。
「私、何やってるんだろう……」
彼女なのにどうして教えてくれなかったのかなんて思ってしまった。佐藤さんは教えてくれなかったんじゃない、教えられなかったのだ。
「もうすぐ終電ではありませんか?」
「そうですね。健斗さん、ありがとうございました。助かりました。」
「また来てくださいね。」
「はい。」
私が好きなのは会社にいる佐藤さんだ。黒塗りの車が迎えに来ようが、執事がいようが関係ない。これまで通り佐藤さんのことを好きでいればいい。
度肝を抜かれるような美男子であることを前髪で隠し、陰キャのようなフリをして、ド派手なサンチェス=ドマーニを着こなす佐藤さんは、実は水伊勢家のご子息──
「秘密が多いなぁ、佐藤さんは。」
空を見上げると少しだけ星が見えた。