私を忘れた彼を やっぱり私は忘れられない
裕美は彼を海岸で見つけた時、王子様が
倒れているのかと思った。

人魚姫の話が大好きな裕美は彼がどこかの
王子様で彼を助ける人魚姫が自分なのだと
なぜかそう思ったのだ。

長いまつげにすっと通った高い鼻、眉毛は
男らしく濃く一筆書きしたようにきれいに
真直ぐに目の上に描かれてあった。

都会的な雰囲気のするイケメンで身長も
180センチ以上はあるようだ。

口は薄く口角が上がっているので苦しそうに
していても、深刻には見えない。

早く彼の瞳が見たいと思った。

絶対に彼を助けてみせる。

ストーブを付けているので部屋は汗が
出そうな程暖かくなった。

医者に言われたように脚や手を母と一緒に
マッサージしながら、カイロを
彼の体に張り付けた。

亡くなった父のまだ残してあったスエットを
着せたけれど手も足も彼には短すぎて
笑えるほどだ。

やっと目を開けた瞳の色は濃いブラウンで
二重瞼の大きな目を見開いて“ここは?”
と聞いてきたが、自分の名前も年も
どこから来たのかも何もわからないと
言ってぼ~っとしていた。

風呂に入って軽く食事をとらせるとまた眠った

裕美はかいがいしく彼の世話をした。

母親の恵子は裕美が彼にのめりこみすぎて
いると心配しているけれど、彼は裕美が
いないと何もできないのだ。

免許証もないので車を運転することも
できないし、身元がはっきりしないので
働きに行く事もできない。

何も覚えていないので連絡のしようもない。

医者の費用も保険証がないので結構な
金額になるのだが、人のいい村の医者は
保険診療の価格位の診療費にしてくれた。

もちろん裕美が払った。
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