私を忘れた彼を やっぱり私は忘れられない
そして、今は恵子さんの49日の法事を
終えて裕美と一緒に東京に帰る為に
新幹線に乗っている。

東京のマンションにはその間に一度
裕美は来ている。

必要なものはすべて揃えたつもりだが
裕美が見て必要なものを買うためでもある。

裕美が持ってくるのは自分の服といつも
使っている生活用品だけで済むように
してある。

冷蔵庫も洗濯機も電子レンジも炊飯器も
必要な電気製品は一通りそろえた。

みんな新品だ。

幸と暮らし始めた時は皆中古でしか
買えなかった。

それも少しずつ揃えたのだ。

優先順位を二人で考えて一つの物を
買うのにリサイクルショップを何件も
回ったものだ。

ダイニングテーブルの4脚の椅子は
皆不揃いで、幸はそれに手作りでカバーを
作ってかぶせて“これでお揃いの椅子に
なった”と言ってどや顔をしていた。

弁護士として一法律事務所に勤めだして
高給取りになっても、幸は贅沢しなかった
性能のいいオーブンを買うのにも
料理教室の受講料が高いと言って
逡巡する幸が可愛かった。

ユキは二人で暮らしたマンションで見つけた
幸の手作りの小さなぬいぐるみを見つめて
”幸ごめんな“と呟いた。
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