イケメンIT社長に求婚されました ―からだ目当て?……なのに、溺愛が止まりません!―

第1話 突然、求婚されました

「君、俺と結婚しないか。……私の理想だ」

出社早々、エレベーターの扉が開いた瞬間に、その言葉は降ってきた。

言葉を発したのは、社長・葉山律。

乗り込んできた彼は、私を見たまま、ごく当たり前のようにそう言った。

「……え?」

あまりに唐突すぎて、聞き間違いかと思った。

栗色の髪に、琥珀色の瞳。190センチ近い長身に、完璧なスーツの着こなし。
まるで映画のスクリーンから抜け出してきたような男性が、真顔で、私を見つめている。

「それって……どういう──」

うまく言葉が出てこない私に、彼はすっと手を差し出した。
そのまま、私の手を取る。
その所作があまりに自然で、咄嗟に拒むこともできなかった。

「理想の体型だ。バランスのいいフォルム。……柔らかそうな脂肪。日本では稀少だ」

「──は、はあぁっ!?」

思わず、声が裏返った。

(な、なに言ってんのこの人!)

社長なのに!? いや、社長だからこそ問題でしょ!

「セ、セクハラです!」

顔を真っ赤にして言い放ったそのとき、エレベーターがチーンと軽やかな音を立てて停止した。

律は私の手を離し、涼しい顔で降りていく。

「考えておいて。俺たち、きっと相性がいい」

ウインクまでつけて、彼はそのままフロアの奥へと消えていった。

ぽかんと立ち尽くす私の中で、さっきの言葉だけが、何度も繰り返される。

(……え、今の現実?)

エレベーターのドアが閉まり、ようやく私はひとつ深く息を吐いた。

でも、あの低く響く声は、しつこいほど頭の中でリフレインしていた。

「君、俺と結婚しないか」

 



 

私の名前は、望月陽菜(もちづき・ひな)。二十八歳。
ITベンチャー『Corven(コルヴェン)』で、派遣社員として働いている。

肩書きは「営業推進部アシスタント」。実際の仕事は、営業資料の作成や会議サポートがメイン。

前に出て話すのは苦手で、どちらかといえば、裏方のほうが性に合っている。

そんな私には、いくつかのコンプレックスがある。

ひとつは、首にぶらさげた入館証。
社員たちは顔認証でオフィスに入れるけれど、私は毎朝それをピッと機械にかざす。

──私はここに属していない。
そんな現実を、毎日、目の前に突きつけられている気がする。

もうひとつのコンプレックスは、胸。
中学でEカップ、今やH。
重くて、動きづらくて、ただただ不便な「生活の負荷」。

それなのに、「色っぽい」「派手」なんて言われても、どう反応すればいいのか分からない。

できるだけ目立たない服を選んでいても、スーツを着れば自然と強調されてしまう。

社内でも、すれ違う男性の視線を微妙に感じることがある。

──そして、あの社長の視線は、全然「微妙」じゃなかった。

(……見られてた。あのとき、本気で)

あの茶色い瞳の熱っぽさを、今でもはっきり覚えている。

(結婚、って……何?)

私の体型を褒めた真意も、わからない。

変な人。まともじゃない。
だけど──なぜだろう。

心の奥のどこかが、ふっと熱を帯びていた。

(……いったい、なんだったの)
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