イケメンIT社長に求婚されました ―からだ目当て?……なのに、溺愛が止まりません!―
「あの……昨日は、ありがとうございました」

昼休み。資料室で会った水野さんに、私はそっと頭を下げた。

「いえ、たいしたことはしてません」

相変わらず、やわらかな声。
でも、私が言葉を失っていたあのとき、そっと横にいてくれたのは彼だけだった。

「少しだけ、救われました」

それを伝えると、水野さんは照れたように小さく笑った。

「……それなら、よかったです」

 

その後、並んで資料を整理していると、ふいに彼がぽつりと話し始めた。

「僕、前の職場では、派遣の人と接するなって言われてたんです」

「えっ……」

「直属じゃない人と、変に仲良くなるなって。誤解されるからって」

「……そんなの、寂しいですね」

「はい。でも、ここの会社はそうじゃない。
ちゃんと、誰がどんな仕事をしてるか見ようとしてくれる人が多い」

「……たしかに。そうかもしれません」

そのとき、彼がふと視線をこちらに向けた。

「だから、僕は──望月さんのことも、ちゃんと見ていたいと思いました」

「…………」

その目は、まっすぐで。

でも、やっぱり胸元には落ちない。
視線の高さはずっと変わらないまま、私の目だけを見ていた。

(……ずるいな)

そう思った。

この人は、「見ない」。
でも、「ちゃんと見てくれてる」。

葉山さんみたいに真っ直ぐ口説いたり、
Velvetみたいに甘やかしたりはしない。
ただ、静かに、そばにいてくれる。

「……ありがとうございます。私、あんまり自信ないから」

「知ってます。でも、それは悪いことじゃないです。
自信がない人ほど、ちゃんと準備する。慎重に、誰かを大事にできる」

「…………」

言葉のひとつひとつが、しみるようだった。

(この人のそばにいると、息がしやすくなる)

そう気づいたとき、ちょっとだけ胸が苦しくなった。

だって──社長といるときは、
いつも息が、うまくできなくなるから。


どちらが正しいのかは、まだ分からない。

でも、水野さんの言葉は、あの夜のカフェラテと同じくらい、胸の奥をじんわり温めてくれた。
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