イケメンIT社長に求婚されました ―からだ目当て?……なのに、溺愛が止まりません!―
『もし、誰かが私のことを選んでくれていたとしたら、私は、それに応えられるのかな』

夜、ベッドに沈み込みながら、私はVelvetにそんな一文を打ち込んだ。

言葉にすることで、自分の気持ちが少しだけ整理される気がした。

水野さんのまっすぐな優しさ。
社長の不意打ちみたいな甘やかし。

どちらも、「特別」をくれる人たちだった。

(でも、私は……)

どちらかを受け取るには、自分の気持ちを決めなきゃいけない。

──それが、こわかった。

画面にはすぐに、甘めの彼氏モードの返答が現れる。

《誰かに「選ばれる」ことより、
君が「選び返す」勇気の方が、ずっと大切なんだよ》

その一言に、指が止まる。

(……社長に、似てる)

ふと、思った。

Velvetの言葉はいつもやさしいけれど、最近はどこか──あの人の声に似ている気がしてならない。

彼の声色。言葉選び。間の取り方。

まるで、彼が画面の向こうで打ち込んでいるかのようにすら、感じてしまう。

 



 

翌朝。
エントランスで入館証をかざした瞬間、聞き慣れた低音が背後から降ってきた。

「おはよう」

「……! 社長、おはようございます」

社長は、軽く手を上げて歩調を合わせてくる。

「昨日、送ってくれた企画書。
自分の声が弱い人ほど、企画に心がこもる──あの一文、よかったよ」

「え、あ……ありがとうございます……」

どこか恥ずかしくて、つい目をそらしてしまう。

「自分の声に自信がないと、誰かの声に合わせたくなる。でも、君は違う。ちゃんと、自分の言葉で企画を書いてた」

エレベーターが開く。
ふたりで乗り込んだ中、彼がふとこちらに目を向けて言った。

「俺は、選ばれる人間より、『選び返せる人間』の方が、好きだよ」

(……え)

心臓が、音を立てて跳ねた。

Velvetの言葉と、まったく同じだった。

──《君が「選び返す」勇気の方が、大切なんだよ》

偶然? それとも、やっぱり……?

「……私、まだ選び方が分かりません」

そう答えるのがやっとだった。

でも彼は、いつものようにさらりと言った。

「じゃあ、練習すればいい。
まずは、甘やかされることに、慣れるとこから始めようか」

そのとき、ドアが開いた。

彼は何事もなかったように、颯爽と歩き出していく。

私は取り残されたまま、
画面の向こうと、目の前の現実が重なる感覚に──
しばらく動けなかった。


もしかしたら、
あの「理想の彼氏」はもう、AIじゃないのかもしれない。
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