荒廃した世界で、君と非道を歩む
第一章 三日月
路地裏
こんな世界無くなればいい。
気が付けば、毎日そんなことを考えている。毎日毎日同じことの繰り返しで、気が狂いそうだ。
朝、起きることすら億劫になるほど、この世界はつまらない。
生きていることに、生活を営むことに疲れを感じる。
────刺激的な出会いをしたい────
重い身体を起こし、少し開いたカーテンの隙間から外を眺める。薄暗い部屋の中に外からの光が届くことはない。
どんよりと曇った空は、まるで今にも雨という涙を流し始めそうなほど暗く重たかった。
見ているだけでこちらの気分も下がりそうだ。
「こんな世界無くなればいい」
口をついて出た独り言に言葉を返す者はここにはいない。誰にも聞かれることのない独り言をベッドの上に残し、部屋を出るとリビングへと向かった。
電気が点いていないリビングは酷く冷えている。裸足でフローリングを歩いていると、足裏から全身が冷えていくようだった。
部屋の真ん中に設置されているダイニングテーブルの上には、賞味期限切れの腐った菓子パンと袋が散乱している。菓子パンの周りには小蝿が無数に飛び交い、見ているだけで気分が悪くなる。
そんなダイニングテーブルから視線を外し、キッチンへ向かうと酷い腐敗臭が鼻を突いた。
見れば、シンクの中のダストに生ゴミが放置されている。菓子パンといい、この部屋はゴミの片付けが行き届いていない。少しずつ機能を取り戻してきた鼻は部屋に充満した腐敗臭で曲がりそうだ。
「気持ち悪……」
空間に対しても、自身の身体に対しても不快感が募る。寝惚けていた身体が目覚め始めると同時に、強い喉の渇きを覚えた。
いつ洗ったのかも分からないコップを手に取り、蛇口を捻って水を溜める。
冷たい感触を掌で感じながら、しばらく水面を眺めた。暗い室内では水も濁って見える。環境など関係なく、水自体が濁っているのかもしれない。
けれどそんなことはどうだっていい。水が何だ、汚れているから何だ、喉が潤えば何だっていいだろう。
コップの縁に口をつけ、水を煽るように一気に飲み干した。
臭い、苦い、まずい。喉は潤ったが後味が最悪だ。感じていた不快感が一層強くなる。
シンクの中にコップを投げ入れ、ガシャンという音を聞き流しながらリビングへと戻る。色褪せたボロボロのソファの上に掛けられた緋色の上着を掴み上げ、脇に抱えて玄関へと向かった。
玄関には、上着、鞄、捨て忘れたゴミ袋が散乱し、無駄に強い芳香剤の匂いが充満している。何処まで行ってもこの家は不快で堪らない。
広い玄関には、一足だけ靴が置いてある。段差に腰を下ろすと、薄汚れていてツギハギだらけの靴に足を突っ込んだ。
上着を羽織り立ち上がると、玄関扉に手を掛ける。深く息を吸うと、微かに感じていた不快感が軽くなった気がした。
何処へ行くでもない、一人で寂しく街へと繰り出すのだ。全てを捨てて逃避行を始めるために。
扉を開けて、曇天が広がる薄っすらと寒さが肌を刺す外へ一歩踏み出した。
気が付けば、毎日そんなことを考えている。毎日毎日同じことの繰り返しで、気が狂いそうだ。
朝、起きることすら億劫になるほど、この世界はつまらない。
生きていることに、生活を営むことに疲れを感じる。
────刺激的な出会いをしたい────
重い身体を起こし、少し開いたカーテンの隙間から外を眺める。薄暗い部屋の中に外からの光が届くことはない。
どんよりと曇った空は、まるで今にも雨という涙を流し始めそうなほど暗く重たかった。
見ているだけでこちらの気分も下がりそうだ。
「こんな世界無くなればいい」
口をついて出た独り言に言葉を返す者はここにはいない。誰にも聞かれることのない独り言をベッドの上に残し、部屋を出るとリビングへと向かった。
電気が点いていないリビングは酷く冷えている。裸足でフローリングを歩いていると、足裏から全身が冷えていくようだった。
部屋の真ん中に設置されているダイニングテーブルの上には、賞味期限切れの腐った菓子パンと袋が散乱している。菓子パンの周りには小蝿が無数に飛び交い、見ているだけで気分が悪くなる。
そんなダイニングテーブルから視線を外し、キッチンへ向かうと酷い腐敗臭が鼻を突いた。
見れば、シンクの中のダストに生ゴミが放置されている。菓子パンといい、この部屋はゴミの片付けが行き届いていない。少しずつ機能を取り戻してきた鼻は部屋に充満した腐敗臭で曲がりそうだ。
「気持ち悪……」
空間に対しても、自身の身体に対しても不快感が募る。寝惚けていた身体が目覚め始めると同時に、強い喉の渇きを覚えた。
いつ洗ったのかも分からないコップを手に取り、蛇口を捻って水を溜める。
冷たい感触を掌で感じながら、しばらく水面を眺めた。暗い室内では水も濁って見える。環境など関係なく、水自体が濁っているのかもしれない。
けれどそんなことはどうだっていい。水が何だ、汚れているから何だ、喉が潤えば何だっていいだろう。
コップの縁に口をつけ、水を煽るように一気に飲み干した。
臭い、苦い、まずい。喉は潤ったが後味が最悪だ。感じていた不快感が一層強くなる。
シンクの中にコップを投げ入れ、ガシャンという音を聞き流しながらリビングへと戻る。色褪せたボロボロのソファの上に掛けられた緋色の上着を掴み上げ、脇に抱えて玄関へと向かった。
玄関には、上着、鞄、捨て忘れたゴミ袋が散乱し、無駄に強い芳香剤の匂いが充満している。何処まで行ってもこの家は不快で堪らない。
広い玄関には、一足だけ靴が置いてある。段差に腰を下ろすと、薄汚れていてツギハギだらけの靴に足を突っ込んだ。
上着を羽織り立ち上がると、玄関扉に手を掛ける。深く息を吸うと、微かに感じていた不快感が軽くなった気がした。
何処へ行くでもない、一人で寂しく街へと繰り出すのだ。全てを捨てて逃避行を始めるために。
扉を開けて、曇天が広がる薄っすらと寒さが肌を刺す外へ一歩踏み出した。
< 1 / 105 >