荒廃した世界で、君と非道を歩む
数秒見つめ合うと、志筑が先に顔を逸らした。膝裏まである長いコートの裾を風に靡かせ、志筑は蘭に背中を見せる。
「暇があればな」
「ふーん」
歩き出した彼の背中を追いかけ、電化製品店の傍を離れる。背後で先程の殺人事件のニュースが報道されていたが、もう気にすることでもない。
世間は自分と志筑のことを見放しているのだ。今更救わるなんて思わない。自由と終わりを求めて逃避行を続けるのだ。
人の流れに沿って数歩の差を保ったまま歩いていると、前から楽しげに話すカップルが向かってきた。カップルを見た蘭は志筑に気づかれないように微かに笑みを浮かべるとすれ違い様にぴったりと志筑に引っ付いた。
志筑の腕にしがみつき、見せつけるように蘭は顔を見上げる。
「おい、離れろ」
「なんで? ああやって見られるのは嫌?」
立ち止まって視線で先程のカップルを指してみれば、志筑は不機嫌そうに顔を歪めた。
それでも引き剥がさない辺り、志筑の人間らしさと不器用な優しさが現れている。そんな志筑の不器用さが心地良く、蘭は一層身体を強く密着させた。
「志筑ってさ、人殺しなんだよね?」
「……そう、なるな。お前も見ただろ」
「殺された人達って共通点がないみたいだけど、あんたの中では選んだ理由があったりするの?」
問いかけては見たが、顔を逸らした志筑は何も言わない。端から答えなどは期待していなかった。
蘭が聞きたいのは、ただ殺された側が選ばれた理由に自分も適用されるのかということ。
どんな理由があれ、選ばれる理由さえ分かればどんな殺し方をされようがどうだっていい。けれど、志筑にその想いが伝わることは無いのだ。
成人男性の平均身長より少し高いであろう志筑の顔を見るには、小柄な蘭は見上げるしかない。
蘭と反対側の道路の方を見たまま何も言わない志筑の顔色を、見上げても伺うことはできなかった。
「私のことを殺してって言ったら、殺してくれる?」
「……そんな事を言ってる間は殺さねぇよ」
縋り付くようにそう問えば、志筑は少し間を開けてから不器用でぎこちない微笑みを浮かべた。殺人鬼のくせにやけに穏やかな笑顔だ。
吐き捨てるように答えた志筑は、乱雑に蘭の頭に手を伸ばすとぐしゃぐしゃと掻き乱した。大きくて骨張った手が頭全体を覆い、視界を無理やり下げる。
その仕草があまりにも不器用すぎて笑えた。微かに笑いを零せば、上から悪戯が失敗した子供のように不貞腐れた声が降ってくる。
「笑うなっての」
「やだ」
出会ってからまだ一日も経っていない。それなのにどうしてこうも志筑に心を許してしまうのか。
その理由に気づきたいと思うが、気づいてしまえば知りたくないことも知ってしまう気がして恐ろしい。
このままの時間がずっと続けばいい。いつの日か理想の死に場所を見つけて志筑に殺されるまで、無知のままでいるのだ。
「暇があればな」
「ふーん」
歩き出した彼の背中を追いかけ、電化製品店の傍を離れる。背後で先程の殺人事件のニュースが報道されていたが、もう気にすることでもない。
世間は自分と志筑のことを見放しているのだ。今更救わるなんて思わない。自由と終わりを求めて逃避行を続けるのだ。
人の流れに沿って数歩の差を保ったまま歩いていると、前から楽しげに話すカップルが向かってきた。カップルを見た蘭は志筑に気づかれないように微かに笑みを浮かべるとすれ違い様にぴったりと志筑に引っ付いた。
志筑の腕にしがみつき、見せつけるように蘭は顔を見上げる。
「おい、離れろ」
「なんで? ああやって見られるのは嫌?」
立ち止まって視線で先程のカップルを指してみれば、志筑は不機嫌そうに顔を歪めた。
それでも引き剥がさない辺り、志筑の人間らしさと不器用な優しさが現れている。そんな志筑の不器用さが心地良く、蘭は一層身体を強く密着させた。
「志筑ってさ、人殺しなんだよね?」
「……そう、なるな。お前も見ただろ」
「殺された人達って共通点がないみたいだけど、あんたの中では選んだ理由があったりするの?」
問いかけては見たが、顔を逸らした志筑は何も言わない。端から答えなどは期待していなかった。
蘭が聞きたいのは、ただ殺された側が選ばれた理由に自分も適用されるのかということ。
どんな理由があれ、選ばれる理由さえ分かればどんな殺し方をされようがどうだっていい。けれど、志筑にその想いが伝わることは無いのだ。
成人男性の平均身長より少し高いであろう志筑の顔を見るには、小柄な蘭は見上げるしかない。
蘭と反対側の道路の方を見たまま何も言わない志筑の顔色を、見上げても伺うことはできなかった。
「私のことを殺してって言ったら、殺してくれる?」
「……そんな事を言ってる間は殺さねぇよ」
縋り付くようにそう問えば、志筑は少し間を開けてから不器用でぎこちない微笑みを浮かべた。殺人鬼のくせにやけに穏やかな笑顔だ。
吐き捨てるように答えた志筑は、乱雑に蘭の頭に手を伸ばすとぐしゃぐしゃと掻き乱した。大きくて骨張った手が頭全体を覆い、視界を無理やり下げる。
その仕草があまりにも不器用すぎて笑えた。微かに笑いを零せば、上から悪戯が失敗した子供のように不貞腐れた声が降ってくる。
「笑うなっての」
「やだ」
出会ってからまだ一日も経っていない。それなのにどうしてこうも志筑に心を許してしまうのか。
その理由に気づきたいと思うが、気づいてしまえば知りたくないことも知ってしまう気がして恐ろしい。
このままの時間がずっと続けばいい。いつの日か理想の死に場所を見つけて志筑に殺されるまで、無知のままでいるのだ。