荒廃した世界で、君と非道を歩む
 人々は楽しげに笑う少女の横で顔を顰める志筑の事を奇異の目で見る。決して志筑が人殺しであることを知っているわけではない。それなのに恐怖心を煽るのは、人を殺したというやましい気持ちが志筑の中にあるからだ。
 そうやって悩み苦しむ志筑にすら気づかない蘭は、能天気で朗らかで怖いもの知らずな無知であった。

「ていうか、志筑って意外とそこら辺気にするよねー」
「どこら辺だよ」
「こう言う……未成年との関わり、みたいな? 殺人鬼なのn」

 蘭の口を慌てて手で覆って次の言葉を制する。気を抜けば何処で何を言われるか分からない。
 神経を研ぎ澄まさないと簡単にボロが出てしまいそうだ。先程も感じていた危なっかしさは気のせいではなかったらしい。
 目をぱちくりとさせ、蘭は不思議そうに志筑を見上げる。その無防備であざとい姿に志筑は居た堪れない気分になった。
 辺りを横目で見れば人々は気づいていない。ほっと胸を撫で下ろし、蘭の口から手を離す。

「どーしたの? ねぇ、志筑。志筑ってば」
「………行くぞ」

 上目遣いで見つめる蘭を無視して歩みを進める。視界の端が繁華街の明るいライトで埋め尽くされても、人とぶつかりながらも決して歩みは止めない。
 後ろから不貞腐れた声が飛んできたが、聞こえないふりをして全て弾き返した。人混みに塗れながら早足で歩く志筑に、蘭は中々追いつくことができないでいた。

「志筑」

 初めは少し歩く速さを緩めた。

「志筑!」

 次はその場で立ち止まる。

「はぁ、はぁ、志筑の馬鹿。私に体力がないの分かってるくせに……」

 蘭の吐息混じりの声が背後で聞こえてようやく志筑は後ろを振り返った。向き合う彼らを避けるように人々は通り過ぎていく。
 何も言わず見つめ合う二人を道行く人々は奇異の目で見たが、彼らにその事は気にすることでもない。
 やっとの思いで追いついた蘭は、勢いよく顔を上げると乱暴に志筑の腕を自分の腕に絡ませた。

「離せ」
「私を置いて行った罰。反省しろ」

 一度は拒絶するが、これは何を言っても無駄だ。この時ばかりは抵抗することを諦め、蘭の好きにさせた。
 道行く周りの人々は二人のことを冷やかしの目で見たり、羨ましそうに横目で見る。理想の人と他人にそういう目で見られることが嬉しいと思ってしまう蘭は、周りとズレいるのだろう。
 けれど、志筑は蘭にとって理想の人、ずっと求めていた人なのだ。
 ぎゅっと腕に抱き付いても彼の鼓動はゆっくりと静かに動いている。

(少しくらい動揺してくれてもいいんじゃないの)

 そんなことを言ったって無駄なことは分かっていた。見た目も心も蘭は同い年の子達より未熟で拙い。そんな彼女のことを志筑がそういう目で見てくれないことだって初めから理解している。
 それでも、ただ誰かに愛してもらいたい。
 たとえそれが嘘でも、自分を陥れる偽物の愛でもいいから、愛というものを感じたかった。
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